筆跡鑑定の真実:時間の経過はどこまで影響するのか?

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筆跡鑑定において、「鑑定資料の記載から〇年以内」といった期間の目安を聞いたことがあるかもしれません。しかし、実はこれは何の科学的根拠もない通説に過ぎません。筆跡鑑定は、皆さんが思っている以上に時間の経過に強く、筆跡が大きく変化しない限り、20年、30年の時間が経っていても鑑定が可能なケースは少なくありません。

筆跡は「長期記憶」として脳に深く刻まれる

文字を書くという行為は、自転車に乗るのと同じように、一度覚えると体が忘れない「手続き記憶」という長期記憶に深く関連しています。この記憶は非常に安定していて、簡単に上書きされることはありません。

例えば、何十年も自転車に乗っていなくても、いざ乗ってみるとすぐに乗れるのは、この長期記憶が強く定着しているからです。筆跡もこれと同じで、一度習得した書き癖は、あなたの脳に深く刻まれているため、そう簡単に変わるものではありません。

もちろん、ビジネスマンのように毎日大量の文字を書く機会が多い場合は、筆跡が少しずつ変化する可能性はあります。しかし、書く機会が減る高齢期になると、筆跡が大きく変わることは非常に稀です。

また、サインのように頻繁に書く文字は、長期的に見れば変化が起こりやすい傾向があります。一方で、普段あまり書かない文字は、繰り返し書く動作が少ないため、筆跡が変化しにくいと言えます。

筆跡の乱れがあっても「書き癖」は変わらない

では、病気や身体的な衰えによって筆跡が乱れた場合はどうでしょうか? たとえば、視力障害やリウマチ、パーキンソン病による手の震えなどで文字が乱れることがあります。

しかし、たとえ読み解くのが難しいほどに筆跡が乱れていても、多くの場合、その人ならではの「書き癖」は依然として現れます。 このような乱れた筆跡であっても、その中に隠された書き癖を特定することで、筆跡の異同を判断することが可能です。


筆跡の変化、時間よりも重要なのは「書体」の違い

筆跡鑑定において、時間の経過よりもはるかに重要となるのが「書体の相違」です。

走り書き・殴り書きと通常筆跡の取り扱い

一つの文書の中に、丁寧な楷書(かいしょ)と崩した行書(ぎょうしょ)が混在していることはよくあります。特に注意が必要なのが、走り書きや殴り書きの筆跡です。これらの筆跡は、通常の速さで書かれた文字と比べて筆跡の変化が大きく、画を省略したり、画同士が連続して書かれたりすることがあります。

当事務所では、これらの走り書きや殴り書きの筆跡を、楷書や行書などと比較することは稀です。なぜなら、書く速度や状況が大きく異なるため、単純な比較では正確な判断が難しくなるからです。

どんなに乱れても「書き癖」を特定する重要性

一方で、読解が可能な程度の乱れた筆跡であれば、先ほど述べたように「書き癖」を特定できれば異同判断は可能です。

なぜなら、書き癖は書体が異なっていても変化しにくいという特徴があるからです。そのため、多少書体が異なっていても、本人の筆跡に常に現れる書き癖を精密に調査することが、正確な鑑定を行う上で非常に重要となります。


筆跡鑑定に関するご質問やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

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