あなたは、「まさか、他人の筆跡をそっくりに書ける人がいるなんて！」と思ったことはありませんか？ 当事務所の鑑定資料❷は私が書いた偽造筆跡、そして鑑定資料❶は実際の偽造筆跡ですが、このように巧妙な「なりすまし筆跡」を書くことは、私にとっては朝飯前です。
「自分が書けないから、他人も書けない」というバイアス
他人の筆跡を巧みに模倣する技術は、人によって大きく異なります。しかし驚くことに、多くの筆跡鑑定人が、この稚拙な偽造筆跡すら見抜けないという現実があります。このようなレベルの模倣すら見抜けない鑑定人に、どうして巧妙な偽造筆跡を見破ることができるでしょうか。
これは、鑑定人自身の「自分が書けないから、他人も書けない」という強い思い込み（バイアス）に起因しています。彼らは、似ている筆跡を見ると、すぐに「本人によるものだ」と思い込みやすい傾向があるのです。
しかし、私のように他人の筆跡を瓜二つに書ける鑑定人は、どんなに似ている筆跡であっても、それが必ずしも本人筆跡であるとは限りません。この強いバイアスこそが、正しい鑑定を阻害する大きな原因となるのです。
つまり、偽造筆跡を巧みに書けることは、筆跡鑑定人として一人前であるための必須条件と言えます。
偽造筆跡を見破る鍵は「書字スピード」と「筆跡の乱れ」
では、プロの鑑定人はどのようにして偽造筆跡を見破るのでしょうか？ その重要な鍵となるのが、鑑定資料の「書字スピード（筆速）」の調査です。
偽造者のほとんどは、本人の筆跡を隣に置きながら、その特徴を真似て書きます（これを臨書といいます）。中には、下から光を当てて文字をなぞって書く（これを透写といいます）ケースもあります。
一般の方からは「光を当ててなぞり書きすれば、そっくりに書けるのでは？」という質問をよくいただきますが、実際に透写による模倣筆跡を書いてみれば、その難しさがよくわかります。ぜひ一度試してみてください。偽造者の心理や技術的な限界が、手に取るように理解できるはずです。
偽造の限界：「筆勢」の消失と「のっぺり」とした線
模倣に集中しすぎると、書字スピードが著しく遅くなります。その結果、
- 画線の持つ「張り（筆勢）」が失われ、生命感のない線になります。
- 連続線や払いの運筆などでも、画線の強弱がなくなり、「のっぺり」とした筆跡になります。
- 場合によっては、画線の震えまで現れることがあります。
- さらに似せようとして、不自然な「加筆」をしてしまうこともあります。
反対に、早く書けば本人筆跡に似ていないだけでなく、偽造者自身の書き癖が露呈してしまいます。上記の鑑定資料❶は、書字スピードの低下による筆跡の乱れと、本人筆跡に似せようとしたがゆえの歪みの両方が現れています。
このように、偽造者の筆記技術や心理状態を精緻に調査することで、偽造筆跡を暴くことは決して難しいことではありません。これこそが、「偽造の限界」なのです。
筆跡鑑定に関するご不明な点や、鑑定のご依頼などございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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