1. 導入:半世紀の常識を覆す、鑑定の焦点は「手」から「脳」へ
遺言書や契約書などの筆跡鑑定は、長年「鑑定人の経験と勘」に依存し、その科学的根拠の曖昧さゆえに、司法の現場で「証拠能力に限界がある」と批判されてきました。
私たちはこの長年の課題に終止符を打つため、10年以上の研究を経て、AI技術を融合させた「脳科学的筆跡鑑定法」の核となる骨格(基本理論と解析システム)を確立しました。これは、従来の「見た目の形状比較」から完全に脱却し、鑑定の焦点を「手」から「脳の運動プログラムの痕跡」へと移した、鑑定史における大きな転換です。
2. 従来の鑑定法が抱える「構造的な脆弱性」
私たちが新しい鑑定法を確立した背景には、従来の鑑定法が持つ構造的な弱点を看過できなかったことがあります。
2-1. 統計的根拠の崩壊:サンプル数の壁
客観性を求めて導入された数値解析法は、筆跡の「個人内変動幅」を数式で分析しますが、その論理は実務の現実で崩壊しています。正確な変動幅の算出には統計学上、最低30個以上のサンプルが必要とされるにもかかわらず、鑑定の実務で分析に使えるサンプルはわずか数個(5個程度)に過ぎません。
十分なデータがないまま変動幅を特定することは原理的に不可能であり、この手法は曖昧な判断に過ぎなくなってしまいます。
2-2. 偽造を見抜けない「致命的な盲点」
従来の鑑定論理のもう一つの弱点は、偽造者が鑑定結果を無力化できてしまう点です。偽造者は、本人の筆跡の「広い変動幅の中に収まる」ように巧妙に模倣することができ、従来の鑑定論理では偽造か本筆かの識別が困難になるという致命的な脆弱性を抱えています。
3. 「脳科学的鑑定」の論拠:手続き記憶の不変性
私たちの鑑定法は、従来の「失敗の論理」を回避し、偽造者が模倣できない領域に科学的根拠を求めます。
3-1. 鑑定の核は「手続き記憶」の恒常性にある
私たちの定義する「脳科学的」とは、筆跡の個性が、脳の深い部分に刻まれた「手続き記憶(Procedural Memory)」という無意識の運動プログラムの痕跡であるという科学的知見を根拠とします。
自転車の乗り方と同じく、文字の書き方も無意識下で実行される「運動の習慣」として強固に定着します。この手続き記憶が作り出す「変わらない」強固な安定性(恒常性)こそが、偽造者が模倣できない鑑定の信頼性を保証する核です。
3-2. AIが実現する客観性と証明力
従来の鑑定法が主観に頼らざるを得なかった分野を、AIとデータサイエンスによって客観化しました。
- 静的データからの科学的抽出技術: 筆跡の静止した画像データから、筆圧の微細な変動や運筆の傾きといった、脳の運動プログラムの痕跡(動的な要素)を正確に定量的に抽出する工程にAI解析技術を活用しています。
- 恒常性の定量化と積の法則: 鑑定人の主観を完全に排除し、筆跡特徴の「希少性」や「偶然ではないと証明できる最低出現頻度」を統計的に算出する際、膨大な比較データを用いたAIのパターン認識と数理モデルが裏付けとなります。
4. AI融合が生む「伸びしろ」:課題への誠実な挑戦
この脳科学的鑑定法の骨格は整い、AIとの融合により、客観的な精度において従来の鑑定を凌駕する段階に至っています。私たちは、この手法を巡る様々な批判や疑問に対し、常に誠実かつ論理的にお答えする姿勢を貫きます。
この大きな技術革新を真の「揺るぎない証拠」とするため、現状を「まだまだ伸びしろがある」状態と捉え、以下の課題に真摯に取り組みます。
- AI駆動の膨大なデータベース構築: 筆跡特徴の希少性を揺るぎなく証明するため、AIによる自動分類・解析を前提とした膨大な筆跡データベースの構築が急務です。このデータベースのサイズこそが、鑑定の「証明力」となります。
- 専門分野の研究深化(AIによる傾向分析): 加齢や認知症といった要因による筆跡の変化の推移など、手続き記憶の経年変化を科学的に追う研究において、AIによる大規模な筆跡データの傾向分析が不可欠です。
半世紀以上にわたり続いてきた「見た目の鑑定」の時代は終わり、AIと脳科学的論拠に基づく私たちの手法が、これからの筆跡鑑定の主流となる蓋然性は極めて高いと確信しています。私たちは、この大きな転換期を担う者として、これからも一層研鑽に励み、司法の公正に貢献してまいります。


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