筆跡鑑定の論理的欠陥を指摘する反論論点集


1. 類似性への過度な依存が招く構造的脆弱性

核心的な主張

核心的鑑定結果は「偽造者の技量」に左右されており、類似性の高さは本人による主張の筆跡であることの積極的な証拠となり得ません。

具体的な問い(尋問論点)

  1. 鑑定人が「類似点」と認定した特徴が、偽造者が意図的に真似て書いた結果ではないことを、どのように排除したのか?
  2. 鑑定手法は「相違点」よりも「類似点」を重視する同筆偏重の構造的欠陥を持ちませんか?もしそうであれば、偶然の一致や作為的な類似を過大評価するリスクをどのように排除しているのか?

科学的根拠・判例

  • 公的判断の援用(判例): 仙台高等裁判所の判決など、類似分析の手法的・科学的根拠が書き手の異同の判断を誤る可能性を指摘し、その証拠能力に限界があることを認めた判例が存在する。
  • 脆弱性の核心: 偽造者は熟練していれば極めて精度の高い模倣が可能であるため、類似性の高さは「偽造の成功」を意味し得る。

2. 鑑定の科学的妥当性を欠く構造的欠陥

核心的な主張

鑑定結果は統計的な裏付けを欠く鑑定人の主観的な「感想」に過ぎず、科学的な客観性がありません。作為の可能性の検討も回避されています。

具体的な問い(尋問論点)

  1. 鑑定書が依拠する「特徴」について、どの程度の出現率(希少性)であれば「書き癖」と認定できるのか、統計的根拠を提示してください。
  2. 鑑定対象筆跡に見られる恒常性の崩れ(筆跡個性の不安定さ)を、単なる「個人内変動」として処理し、作為(偽造)の可能性を真剣に検討しなかったのはなぜか?
  3. 鑑定書は筆継ぎ、逡巡線、不自然な運筆など、作為の痕跡について詳細な調査結果をなぜ示していないのか?

統計的根拠

  • 希少性の証明の欠如: 類似点をもって同筆の根拠とするには、その特徴(出現率)の証明が不可欠です。これがなければ科学的な客観性は成立しない。
  • 恒常性の看過: 作為筆跡の典型的な特徴である「筆跡個性の不安定さ」を曖昧な概念で片付けることは、科学的検証の放棄である。

3. 実務の不徹底と信頼性に関する論点(サンプルの科学的妥当性を含む)

核心的な主張

鑑定の土台となる対照資料の真正性が不確実であり、また、分析に足るサンプル数が確保されていません。これでは鑑定書は直ちに無効となるべきです。

具体的な問い(尋問論点)

  1. 対照資料(本人筆跡)に他人の筆跡や代筆が混入していないか、どのような手法で入念に調査・確認したのか、その証拠を提示してください。
  2. 筆跡の「個人内変動幅」を正確に決定し、統計的に有効な結論を導くために理論上最低限必要なサンプル数は何個か
  3. 鑑定で使用された共通文字のサンプル数が理論上の必要数を大きく下回る場合(例: 5個以下)、その結論は統計学的根拠が極めて薄弱であり、鑑定人の憶測に過ぎないのではないか?

実務・統計的根拠

  • 資料の真正性の瑕疵: 対照資料に他人の筆跡が混入していれば、比較の土台が崩れるため、その鑑定書は直ちに無効となる。
  • 科学的理想と実務の壁: 筆跡の「ゆらぎ」を統計的に分析するには、理論上最低でも30個以上の共通文字サンプルが必要とされるが、実務では5個程度で判断している事例が多く、鑑定の根拠が極めて薄弱になっている。
  • 権威の悪用: 「協会」や「法科学」といった名称が、科学的妥当性のない鑑定手法に過度な権威付けをするために利用されている側面がある。

この論点集の目的

この論点集は、単に鑑定結果の良し悪しを問うのではなく、鑑定手法そのものの構造的・科学的な欠陥を突き証拠能力を根本から否定するための強力なフレームワークを提供します。