筆跡鑑定の依頼は「初めて」という人がほとんどである。
やったことがないから,筆跡鑑定人であればどこも一緒と思い,それだったらgoogleやyahooの検索上位であれば問題ないだろうと思うのは当然だ。
残念であるが,鑑定依頼が初めてという方はその考えはやめた方がいい。筆跡鑑定の検索順位は,技術の高さよりもSEO対策によるものが大きい。前にも書いたが「鳥取の筆跡鑑定」とか「札幌の筆跡鑑定」と検索しても,その地域とは全く関係のない地域にある鑑定所が検索上位となっている。SEO対策すれば検索順位が上がるという当たり前のことだ。つまり,技術力の高さと検索上位とは全く無関係なのである。

また,ホームページの内容をよく読んでみても,その内容から鑑定所の良し悪しを判断することはできないといってよいだろう。その証拠に「顕微鏡検査」「コンピュータによるAI鑑定」と書いてあったら,多くの方は「精密な鑑定を行い,最先端の技術を駆使して鑑定業務を行っている技術力に長けた鑑定所に違いない」と錯覚するであろう。何しろ,この業界は筆跡鑑定の技術を磨くことよりも,SEO対策や依頼人をどう欺くかという技だけは卓越しているのである。腐りきった業界であることの何よりの証拠だ。
また,廉価で鑑定を行うことを前面に押し出しているところも散見されるが,依頼人が十分に納得できる根拠の提示とそれに対する鑑定結果であればそれに越したことはない。しかしながら,怒り心頭で私のところに再鑑定を依頼してくる方は後を絶たない。つまり,再鑑定を行うことで2回分以上の鑑定料金を支払うことになるから安物買いの銭失いということになる。
前置きはこれくらいにして,トラブルになりやすい実例を紹介したい。これから依頼しようとする方は,非常に重要なことなどでしっかりと頭に叩き込んでいただきたい。

❶鑑定結果が曖昧
筆跡鑑定が初めてという方であれば,「これで,書いた人物が本人ということが証明できる」とか「遺言書が偽造であることが証明できる」と鑑定結果を心待ちにしていることであろう。ところが,送られてきた鑑定結果を見ると「同一人の可能性が高い」だとか「別人の可能性が高い」とか,どっちにもとれる曖昧な表現で書かれていることは少なくない。
こんな鑑定結果が送られてくるとは想像もしていないからトラブルになることが非常に多い。曖昧な鑑定結果と分かっていればそもそも依頼はしなかっただろうし,相手方ともまともに交渉すらできない。こんなことだから,相手方から「可能性が高いということはそうではない可能性もあることですね」と突込まれることも予想される。さらには,返金保証と謳っていながら鑑定料金は先払いなので,これを理由に返してくれと言っても後の祭りだ。なぜなら「筆跡鑑定というものはこういうものです」と言われて終わりである。これならまだいいほうで,鑑定結果が「同質(異質)な筆跡」というものや「類似した筆跡」という鑑定結果まであるのだからどうしようもない。そもそも,依頼者は本人が書いた筆跡かどうかを知りたいのであり,筆跡の質や類似性が高いか低いかなどどうでもよいのだ。それに加え,これらの調査を依頼したわけでもない。そもそも,類似性が高いことと本人筆跡であることは別ものだ。
❷廉価で誘って,特急料金を提案される
ホームページには廉価な料金を書いているが,特急料金に導く巧みな手法を採っていることが最近増加している。このような理由で再鑑定を当研究所に依頼された方は一人や二人ではない。
その手口とは・・・
依頼人:筆跡鑑定を依頼したいのですが,料金は●●円ですね?
鑑定所:はい。ただ,今は非常に依頼が立て込んでいて,完成は〇月(3か月から半年後)となります。お急ぎでしょうか?
依頼人:できるだけ早くお願いしたいのですが?
鑑定所:それでは,特急(緊急)料金というのがあります。料金は,通常料金の2(3)倍いただきますが,納期にはきっちり間に合わせて作成します。
といった具合である。依頼人の足元を見てこのように吹っ掛けるのだ。
そもそも,鑑定書ではなく簡易な報告書で3か月とか半年もかかるというのが事実であれば,鑑定能力が相当低いか仕事のできないかのどちらかである。こういった鑑定人に騙されないように注意していただきたいものである。
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