繰り返し書いておりますが,鑑定人の実力を測る物差しは公開試験しかありません。
しかしながら,筆跡鑑定が全くできない筆跡鑑定人を知ることは,ある方法を使えば可能です。ここでは,その方法を簡単にお伝えしましょう。
自筆証書遺言や署名の筆跡鑑定は,2つの鑑定事項が考えられます。ここでは自筆証書遺言について解説いたします。
その2つの鑑定事項とは以下の2つです。
❶自筆証書遺言に書かれている筆跡は,本人の筆跡であるか否か
❷自筆証書遺言に書かれている筆跡は,疑いのある人物の筆跡か否か
資料が整っていれば❶の筆跡鑑定は比較的容易に行えます。また,一般にその遺言書が偽造であると思い提訴する場合には「遺言無効確認訴訟」ということになるでしょう。その場合,❶の鑑定事項が重要であり,❷は疑いのある人物を相続欠格にしたい場合に依頼されるケースが多いものの,❶の鑑定したのちであっても,❷の鑑定が可能な可能性は20%程度です。これは,前にブログに書いたように模倣が上手な偽造者であれば,同筆の証明が非常に困難であるという理由です。
では,次のような場合は筆跡鑑定が行えるのでしょうか?
実際の問い合わせです。「本人の筆跡が手に入りません。妹が偽造した可能性が高いので,妹の筆跡と遺言書の筆跡が同一人物の筆跡かどうかの鑑定をお願いします。もちろん妹の筆跡は,遺言書に書かれている文字と共通する筆跡がたくさん含まれているので資料としては問題はないと思います」
この内容で,筆跡鑑定が行えるかどうかという問題です。皆さんはわかりますでしょうか?皆さんは分からなくて当然ですが,筆跡鑑定人と名乗っている者が分からなければ大きな問題です。
先日,この内容で鑑定を行う場合に料金がいくらになるか知りたいという問い合わせがありました。
そこで,問い合わせをしてきた人に簡単な質問をしました。「もし,妹さんが偽造したと仮定した場合,その筆跡は本人筆跡に似せて書かれていますか?」という私の問いに[似せて書いてある」と言っておりましたので,即座に「本人の筆跡がなければ筆跡鑑定はできません」とお断りしました。
すると,「他の鑑定人に問い合わせしたらできると言っていた」とのことなので,ではその鑑定人に依頼してくださいと言って電話を終わりました。
鑑定人と名乗っていても,こんな簡単なことも分からないのですからどうしようもありません。きっと問い合わせされた方は,私に鑑定能力がないと感じたのではないでしょうか。この事例は,筆跡筆跡鑑定が出来ない鑑定人が淘汰されない理由の一つです。それは,このことが多くに知られていないからです。
結論から先に言うと,❶の筆跡鑑定を行わずにいきなり❷の鑑定を行うことは出来ないのです。
私が鑑定人になりたての頃,「絶対に出来ない」という感覚はあったのですが,その理由を説明することが難しかったことを今でも覚えています。おそらく,多くの鑑定人も同様に説明が出来ないでしょう。
従って,鑑定を依頼する場合には次の質問をされてはいかがでしょうか。そうすれば,その鑑定人が鑑定ができるか否かが分かるはずです。
<問い合わせの仕方>
「遺言書の筆跡鑑定なのですが,妹(兄姉弟)が偽造したと思っています。妹(兄姉弟)の筆跡は沢山ありますので,妹が偽造したのか鑑定をお願いしたいのですが」
鑑定人の回答が「分かりました」とか「資料を拝見してみなければわかりません」という,受任を前提とするものであれば嘘をついているか,100%鑑定ができない鑑定人であることになります。
また,「できません」といってきたら理由を聞いてみてください。納得のいく理由であれば知識は豊富な鑑定人であると思います。
私は簡単に説明できますが,皆さんが鑑定人の実力を試せるチャンスなので,ここでの解説は控えさせていただきます。このことをお知りになりたい方は,お気軽にお電話ください。丁寧に解説いたします。もちろん無料です。
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