筆跡鑑定において重要な知識の一つに,筆跡には「書く都度に変化する単なる特徴」と「恒常的に出現する書き癖」の二つが存在している」というものがあります。このことはこのブログで繰り返し書いていますので,このブログのアーカイブを参照ください。
あろうことか,裁判官や筆跡鑑定人ですらこのことが分かっていないのです。下図をご覧ください。

上図の通り,指摘基準を設けなければ指摘箇所の選択如何によって,どちらの鑑定結果も導くことが可能となります。即ち,筆跡鑑定において最も重要なことの一つは変化の少ない「恒常的に出現する書き癖」を指摘基準としなければならないのです。下図に分かり易い事例を載せましたのでご覧ください。


上図の鑑定資料と対照資料は別人の筆跡です。二つの上図の青枠の対照資料の筆跡に赤の補助線を付けた箇所は,書く都度に変化しています。即ち,且つ都度に変化する箇所では比較が出来ないのです。あろうことか,筆者識別が出来ない伝統的筆跡鑑定法では,単なる特徴までも指摘し,上図のように「第1画の長さがB4の筆跡に類似している」とか,下の図では「第2画の形状の反り具合がB5に類似している」から同筆要素であると馬鹿げたことをいっているのです。つまり,伝統的筆跡鑑定法は,指摘基準という概念が存在しないため「書く都度に変化する単なる特徴」を指摘することで同筆と判断されやすくなるのです。
一方,「恒常的に出現する書き癖」を指摘基準とする脳科学鑑定法では下図のようになります。

「第2画の第1画の上への突出」は手本文字よりも突出を短く書く「傾向」が恒常的に現れています。さらに,第2画の第1画との交差部はかなり左寄りとなる「傾向」も同様に恒常的が現れています。この箇所が「書き癖」です。即ち,恒常的に出現する固定化された「書き癖」があるが故に比較が可能となるのです。
前回の「裁判官が鑑定書の良し悪しを見抜けない理由❶」と当ブログの記載内容をまとめますと
❶安易に「一致・類似する箇所」を指摘していないか。また,同筆要素とならない「分かり易い特徴の一致・類似」や「標準に書く特徴の一致・類似」を指摘していないか
❷指摘基準を設け,都度変化する単なる特徴を指摘していないか
この2点を調査するだけで,その筆跡筆跡鑑定が有効な筆跡鑑定書であるのか,意味のない無効な鑑定書であるのか容易にわかるのです。このことは,少なくとも百件以上裁判所に提出した当職の鑑定書に明示しています。これが非常に重要であることも理解できず,こんな簡単なことすらも勉強しない裁判官が善良な方を救えるのでしょうか。鑑定が出来ない多くの筆跡鑑定書を読んで,筆跡鑑定は証拠能力に限界,どの鑑定書も一緒と考える固定観念に束縛されることは誤りです。正しい筆跡鑑定法が誕生したことを理解し認める必要があるのです。さもなければ,この先も善良な方が苦しみ続けるのです。筆跡鑑定を軽視することは大きな間違いであることに早く気付いていただきたいものです。

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