いまだに,裁判所が書字が手続記憶に大きく関与していることを認める様子はない。この理論は非常に大切なもので,筆跡鑑定が大きく進展する要となるものである。およそ,10年以上に亘り,当職の筆跡鑑定書に「書字は手続き記憶である」という趣旨を書いてきたが,裁判所は無視を決め込んでいるらしい。これがどんなに愚かなことか分かる日が来るであろう。
尤も,唯一日本で筆跡鑑定を研究している科学警察研究所ですらもこのことが全く分かっていないから仕方がないのかもしれない。なぜなら,脳科学は最近になって発展した学問であるからだ。しかしながら,書字が手続き記憶に大きく関連していることは脳科学で証明されている事実である。以下はその参考文献である。

このように多くの文献に掲載されているこの理屈が認められない理由を考察してみよう。
それは「筆跡の個人内変動を分析する科学的な鑑定」「配置・筆圧・筆順・偽筆の4つに注意をしながら鑑定を進める」「記載時期は10年まで鑑定が可能」などという大嘘がまかり通っていることだ。裁判所は,どれが正しい情報であるのか分からず,結局は多く鑑定人や肩書のある人物によって述べられている大嘘を正としているのだ。その証拠として「〇という筆跡は本人のものに酷似している」「資料がコピーなので信用できない」という趣旨の馬鹿げた判決文を数多く書いていることからも分かる。こんなことになるから,裁判所は科学に口を出してはならないのである。
例えば「記載時期は10年まで鑑定が可能」との大嘘は,筆跡は年数を経れば変わるという稚拙な理由から述べていることが分かる。書字は手続き記憶に大きく関与しており,学説では長期記憶に分類される。この記憶を変えるには「新たな運動の繰り返しによる上書きが必要」になる。即ち,高齢者になれば書字をする機会が減って繰り返し書くことが少なくなることから,手元が覚束ない筆跡を除き変化が起こりにくいのだ。つまり,書字の機会が多いビジネスマンは筆跡に変化が起こる可能性は高くなるが高齢期になるとそれが少なくなるのである。
また「筆跡鑑定は資料がものを言う」という通り,たった1枚の資料から誤字と正字の違いや筆順の違いから異筆であることが分かる場合がある。これを「鑑定が可能な記載時期は10年まで」としてしまうと,それ以前の資料は鑑定対象外となってしまう。非常にもったいない話だ。
私が,大嘘が蔓延ることを嫌う理由はこういうことなのである。
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