科学的手法について解説します

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科学的手法とはどんな鑑定手法なのかを詳細に解説する。下図は,某鑑定所のホームページの「科学的手法とは」に書かれているのものを引用した。鑑定所によって定義にばらつきがあるのも興味があることだ。

赤外線カメラで撮影を行い加筆痕や不審点の有無を調査したり,特殊な技法を用いて筆圧を可視化したりするものです…某鑑定事務所のホームページより引用

原本に光線を当て,筆圧や書き順を観察・異同の判断を行う…某鑑定事務所のホームページより引用

筆圧の調査

最初に,両鑑定所共に[筆圧]により異同の判断を行うとあるが,筆圧によって異同判断を行っている鑑定書は見たことがない。それに加え,筆圧によって筆者の特定は論理的に100%不可能だ。これについての詳細は当鑑定人のブログ「正しい鑑定法よりも科学的根拠のない鑑定法が支持されるというジレンマ」を参照いただきたい。

赤外線カメラを使用しての調査

次に赤外線カメラを使った鑑定法です。これは,主に領収書の加筆やその他の文章などに後から加筆されたかどうかを調べる調査方法である。例えば,数字の1に∠を後から加筆し4に見せかけたり,文中にあるある箇所が後から書かれたものであるかどうかを調査する。この手法は,元の筆跡が後から書かれた筆跡のインクと異なるものである必要がある。具体的には,元の筆跡と加筆されたインクのどちらかが,赤外線を透過するインクと透過しないインクで書かれた場合のみ有効となる鑑定法だ。

加筆や筆継ぎ痕の調査

次に解説するのが加筆痕である。主に,筆跡を拡大して不自然な加筆や筆継ぎを調査する手法である。加筆はインク切れや書き損じの際にも出現するので,加筆痕があっても必ずしも偽造とは言えない。まずはインク切れや書き損じではないことを確認し,加筆の必要の無い箇所にそれが現れているかを調査しする。そして,明らかに自然に書いた筆跡と思われない加筆や筆継ぎを特定する。

<加筆痕の例(の箇所)>

<筆継ぎ痕の例(の箇所)>

書き順(筆順)や誤字・正字/旧字新字の調査

鑑定資料と対照資料で書き順が同じか否かを調査する手法である。上図の「区」の文字を再度ご覧いただきたい。対照資料の書き手は正筆順で書いているが,鑑定資料の書き手は「第1画→第4画の縦画→第2画→第3画→第4画の横画」と一画多い。鑑定資料の書き手は,自分の手続き記憶に強く固定化され第1画の次に第4画の縦画をうっかり書いてしまっている。すると,隙間が出来て偽造がばれるため加筆してその隙間を埋めることになる。

「筆順の違いは強い異筆要素」は,脳科学的筆跡鑑定法の論理である。従来は,書字が手続き記憶であるということが分かっていないことから,書き順の違いは滅多に起こらないという経験則から異筆要素としてきた。当研究所では,脳科学の発展に伴い書字が手続記憶であることが分かったことでこれを応用し,「同一人物が同じ文字を書けば,手指の運動同作はほぼ同じ軌道を辿る」ことを検証し,筆順の違いが強い異筆要素となる裏付けを証明した。

まとめ

以上から分かるように,科学的手法のみで鑑定を行うことはなく,どんな鑑定書でも主要の類似鑑定法(伝統的筆跡鑑定法,計測的鑑定法)+科学的鑑定法となり,当然のことながら脳科学的筆跡鑑定法であっても脳科学的筆跡鑑定法+科学的鑑定法といったように補助的な鑑定法として活用している。したがって,科学的鑑定法のみで鑑定を行うことはない。よって,某鑑定所やそれを拡散している弁護士の方のホームページに記載のある「筆跡方法の鑑定には、伝統的方法、計測的方法、科学的方法の3種類がある」というのは,読み手を誤認させる嘘であることが分かる。

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