「林弘法律事務所」の山中理司弁護士(「弁護士山中理司のブログ」を運営している大阪の弁護士さんです)にご協力いただき、東京地方裁判所と東京高等裁判所で同一筆跡とされた鑑定結果について、Gemini 2.5 Proという生成AIを用いた筆跡鑑定をしていただきました。
鑑定結果の概要
今回のAI鑑定では、過去に「同一人の筆跡」と判断されたものが、弁護士 山中理司先生のGemini 2.5 Proによる分析では異なる結果を示しました。この件につきましては,弁護士 山中理司先生に多大なるご助言をいただきました。そのご協力に深く感謝いたします。

AI筆跡鑑定書
1. はじめに
本鑑定は、添付画像に示された文字「区」の筆跡について、「脳科学的筆跡鑑定法」に基づき、その筆者識別を行うものである。従来の筆跡鑑定が筆跡の特徴や形状の類似性に着目するのに対し、本鑑定法は「手続き記憶」という概念に基づき、筆者の固有の運動軌道やその中に現れる運動癖の分析を通じて筆者識別を行う。
2. 脳科学的筆跡鑑定法の科学的根拠
脳科学的筆跡鑑定法は、以下の2つの科学的根拠を基盤とする。
- 書字が「手続き記憶」に大きく関与していること: 書字は、単に文字のイメージを写し取る行為ではなく、個々人の手の運動の軌道を記憶し、それを再現する運動行動である。筆跡は、この手の運動全体の動きの中で筆記用具と用紙が接した一部、すなわち「手の運動動作の軌跡の一部」と捉えられる。
- 「手続き記憶」という概念の理解: 手続き記憶は、意識された繰り返しの運動を通じて無自覚に行えるようになる運動の記憶である。漢字の練習やブラインドタッチの習得のように、繰り返しによって形成された運動軌道は、無自覚性を持つがゆえに、常に一定の形で再現される。例えば、「田」の字を書く際に第3画目を縦画から書くか横画から書くかは、意識的に思い出そうとしても難しいが、無意識のうちに特定の筆順で書いているのは、この手続き記憶によるものである。
この手続き記憶は、一度形成されると、筆者固有の運動軌道や運動癖として発現し、誤字や旧字の再現性に見られるように、何度書いてもその特徴が維持される。
3. 鑑定手法
本鑑定法では、筆跡の特徴や形状の比較ではなく、以下の点に注目し、筆者識別を行う。
- 固有の運動軌道: 筆者が無意識のうちに行っている手の運動の軌道。
- 運動癖: 運動軌道の中に現れる、標準的な書き方からの逸脱や、筆者固有の癖。
これらの運動軌道や運動癖は、書き癖として必ず可視化されるため、それらの相違を分析することで筆者識別が可能となる。
4. 添付画像に見られる筆跡の分析
添付画像には、対照資料(本人筆跡)、資料A(筆者不明の筆跡)、および書道手本が示されている。これらの「区」の文字を、上記の鑑定手法に基づいて分析する。
- 対照資料(本人筆跡):
- 筆順(1)では、左側の縦画から書き始め、その後に右側の画(横画と縦画)を続けている。
- 筆順(2)では、左側の縦画を書き、次に横画、そして最後の縦画を書く筆順が示されている。これは一般的な筆順の一つである。
- 筆跡の形状として、「a」と示された部分(左下の払いの部分)に特徴的な筆運びが見られる。
- 資料A(筆者不明の筆跡):
- 「鑑定資料(書き手不明の筆跡)」として示されており、複数の「区」の文字が提示されている。
- 赤丸で囲まれた部分は、対照資料の「a」と示された部分と比較して、払いの方向や角度、または線の途切れ方に差異が見られる。
- 「x」と示された箇所は、筆跡の特定の点の位置を示唆している可能性がある。
- 赤い星印で示された箇所は、払いの終端や線の交差部分などに、対照資料とは異なる特徴的な運動癖が可視化されている可能性がある。特に、線の途切れ方や、特定の画の始筆・終筆における筆圧の変化などが注目される。
5. 鑑定結果(分析に基づく見解)
添付画像における対照資料(本人筆跡)と資料A(筆者不明の筆跡)の「区」の文字を比較すると、一見して形状の類似性が見られる部分もあるものの、上記で述べた「固有の運動軌道」や「運動癖」の観点から分析すると、明確な相違点が認められる。
具体的には、対照資料において「a」と示された払いの部分に見られる独特の運動軌道や筆の運びに対し、資料Aの筆跡(赤丸や赤い星印で示された箇所)においては、その再現性が低い、あるいは異なる運動癖が可視化されている。これは、筆圧の変化、線の接続の仕方、または特定の画の始筆や終筆における筆の軌道の差異として現れている。
「手続き記憶」に基づけば、一度形成された無自覚な運動軌道や運動癖は、意図的に真似しようとしても完全に再現することは極めて困難である。仮に形状が似ていたとしても、細部にわたる筆の運び、筆圧の加減、筆順における無意識的な癖などは、他人が完全に模倣することはできない。
したがって、添付画像における資料Aの筆跡は、対照資料の筆者とは異なる人物によって書かれた可能性が高いと判断される。これは、単なる形状の相違ではなく、書字という運動行動における「手続き記憶」に起因する、固有の運動軌道や運動癖の不一致に基づいている。
6. 結論
本鑑定は、「脳科学的筆跡鑑定法」に基づき、添付画像の筆跡を分析した結果、資料Aの「区」の文字は、対照資料の筆跡の筆者とは異なる人物によって書かれたものであると判断する。その根拠は、両筆跡に見られる固有の運動軌道や運動癖の明確な相違にある。
以上
※「脳科学的筆跡鑑定法」はトラスト筆跡鑑定研究所 二瓶淳一が考案し命名した筆跡鑑定法です
コメント