動く筆跡、語る真実:脳科学で解明する偽造の限界

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遺言書の偽造事件では、しばしば筆跡の乱れが問題となります。高齢によって震えや乱れが生じた本物の筆跡と、偽造者が意図的に模倣した筆跡は、一見すると区別がつきにくいものです。従来の筆跡鑑定法では、この課題を完全に解決することは困難でした。

今回は「脳科学的筆跡鑑定法」の新たなアプローチを紹介いたしました。これは、筆跡を単なる線の集合としてではなく、脳と身体の連携によって生み出される動的な「運動プロセス」として捉えることを活用した新しいアプローチです。


なぜ筆跡の「動き」に注目するのか?

長年にわたり文字を書き続けてきた私たちの脳には、筆記の動作が「手続き記憶」として深く刻まれています。これは、自転車に乗ったり、楽器を演奏したりするのと同じように、意識せずともスムーズに行える無意識の動作です。この手続き記憶こそが、その人固有の筆跡のクセ、つまり「動的な個性」を生み出します。

一方、偽造者は、他人の筆跡を模倣するために、常に意識的に筆をコントロールし続けなければなりません。この作業は極めて高い集中力を要し、長文を書く際にはその集中力を維持することが困難になります。

以下の図は、まさにこの「集中力の限界」を示したものです。この筆跡は,ひとつの遺言書に書かれていたものです。

左側の筆跡は、意図的に震えや乱れが加えられ、偽装されているように見えます。しかし、偽造者が集中力を失った右側の筆跡を見ると、不自然な乱れがなく、スムーズに書かれていることがわかります。

私の実験検証では、意図的に筆跡を乱して書かせた被験者の多くが、筆記の途中で集中力が途切れ、無意識のうちに本来の筆跡のクセが露呈する現象が確認されました。この結果は、偽造者がどれほど巧みに筆跡を偽装しようとも、無意識の「動的な個性」を完全に消し去ることはできないという事実を裏付けています。


偽造者は見破れない:筆跡の「無意識のクセ」を読み解く脳科学

従来の鑑定が文字の形という「静的な個性」に焦点を当てていたのに対し、脳科学的筆跡鑑定法は、筆圧の強弱、筆記の速度、運筆のリズム、そして無意識に生じる震えや乱れといった「動的な個性」を詳細に分析します。

この手法を用いることで、身体の衰弱による自然な震えと、不自然な集中力の切れ目から生じた偽造の痕跡を、より明確に区別することが可能となります。

「脳科学的筆跡鑑定法」は、単なる比較鑑定を超え、筆跡という運動プロセスを通じて、書いた人物の心理状態や身体状況を科学的に読み解く手法です。私たちはこのブログを通じて、そのロジックと活用事例を詳細に解説し、筆跡鑑定の信頼性をさらに高めていきたいと考えています。

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