筆跡には、一時的な特徴と恒常的な特徴という、まったく異なる2つの背景があります。脳科学的なアプローチに基づく筆跡鑑定では、特に後者の特徴を重視します。
1. 一時的な特徴:その時々のコンディション
これは、書くたびに変化する要因によるものです。たとえば、筆記用具の滑りや手の疲労、その日の気分などが挙げられます。これらは、手の微細な動きに影響を与え、筆跡にわずかな「ブレ」を生み出しますが、筆跡鑑定ではさほど重要視されません。
2. 恒常的な特徴:無意識の「手の癖」
筆跡鑑定で最も重要視されるのが、この恒常的な特徴です。これは、脳が体の動かし方を記憶する手続き記憶という機能に基づいています。
文字を書くという行為は、何度も繰り返すうちに、無意識の運動パターンとして脳に定着します。たとえば、文字の「はね」や「払い」の部分で、手首をどのように動かすか、どのくらいの力を加えるか、といったその人固有の「手の癖」が生まれます。これは、一度身につくと無意識に行えるようになる、自転車の乗り方や楽器の演奏と同じようなものです。
まとめ
このように、脳科学的筆跡鑑定では、筆跡の一時的な変化ではなく、脳に記憶された無意識の「手の癖」、つまり手続き記憶に根ざした恒常的な筆跡個性を分析します。見た目の形だけでなく、その形を生み出した身体の動きを読み解くことが、筆者を識別する上で最も重要となります。


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