筆跡鑑定の主題:あなたは「特徴」を比較しますか?それとも「個性」の有無を検証しますか?

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筆跡鑑定と聞くと、まるで探偵のように文字の真実を暴く専門家を思い浮かべるかもしれません。遺言書や契約書の真偽、あるいは犯罪捜査で、筆跡が重要な証拠になることは少なくありません。しかし、ひと口に筆跡鑑定といっても、その主題には、全く異なる2つの独立した鑑定アプローチがあることをご存知でしょうか。

この記事では、鑑定の根本的な主題である「筆跡特徴の比較」という従来の観点と、「筆跡個性の出現の有無」という新しい観点から、それぞれの鑑定法の本質を紐解きます。


1. 従来の筆跡鑑定:筆跡「特徴」の比較

この手法の主題は、文字の「形態(形)」に現れる特徴を比較することにあります。鑑定人は、誰が書いたか不明な筆跡と、本人が書いたと分かっている筆跡を並べ、以下のような特徴を詳細に分析します。

  • 鑑定の主題: 文字の「結果」として現れる様々な形態的特徴を、他の筆跡と比較することです。
  • 強み: 鑑定士の長年の経験に基づく鋭い観察眼が、文字の形や癖から書き手の習慣を読み解きます。

このアプローチは、長年にわたり筆跡鑑定の主流として使われてきました。


2. 脳科学的筆跡鑑定:筆跡「個性」の科学的解明

近年誕生したこの手法は、筆跡鑑定に「脳科学」がもたらした革新です。その主題は、筆跡の「個性」の出現を検証することにあります。筆跡は、脳の「手続き記憶」という無意識の運動プログラムから生まれます。このプログラムが生み出す、ペンが紙に触れる瞬間の筆圧や運筆の速さといった無意識の動きのパターンが、一人ひとりに固有の「筆跡個性」として現れます。

この鑑定では、筆跡に現れたこの「個性」の有無を、科学的な根拠に基づき検証します。

  • 科学的根拠: 筆跡を、指紋のように個人固有の無意識の運動パターンとして捉えます。
  • 最大の優位性: 筆跡の形を真似ることはできても、この無意識的な運動パターンを完璧に偽装することは極めて困難です。

この手法は、単なる筆跡比較に留まらず、筆記が行われた当時の身体的・環境的状況と、筆跡の特徴との間に矛盾がないかを徹底的に検証する点が強みです。例えば、病気で手が震えるようになった筆跡でも、カルテや筆記時の姿勢といった多角的な情報を総合的に判断することで、「なぜ筆跡が変わったのか」という動的な側面を科学的に解明するのです。


まとめ:新しい鑑定法がもたらす革新と信頼性

従来の鑑定が筆跡の「特徴」の比較という主題に焦点を当てる一方、脳科学的鑑定は筆跡の「個性」の出現の有無を検証します。

この新しい手法は、従来の鑑定法が持つ強みである「長年の経験に基づく判断力」を包含し、さらに科学的根拠と客観性を加えることで、鑑定全体の精度を飛躍的に高めています。偽装筆跡や、筆跡が変化したケースにおいても、より高い次元の確実性と信頼性を提供します。

現在、この手法は法科学分野における信頼性の確立を目指して、研究・検証が進められています。今後は公開検証を通じて高い正答率を証明していくことで、鑑定の標準として広く認知されることを目指しています。

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