【専門家が解説】「筆跡鑑定は主観的で確度が低い」という誤解を斬る!偽造文書で泣かないための真実

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インターネット上には、「筆跡鑑定の結果は主観的な意見にすぎない」「民間鑑定は信用できない」といった、筆跡鑑定を過度に不安視させる情報があふれています。しかし、これらの議論は筆跡鑑定の科学的な本質と実務の現実を見誤っています。

文書鑑定の専門家として、これらの誤解を一つひとつ解きほぐし、筆跡鑑定が持つ真の価値と、依頼する際に知っておくべき重要な事実を解説します。


1.筆跡鑑定は「主観」ではない!科学的根拠に基づく分析

最も大きな誤解は、「鑑定官が『跳ね』や『止め』といった特徴を主観的に観察するものだ」という主張です。

「~と思われる」の真の意味

鑑定書が「~と思われる」という表現で結論づけられることをもって、「単なる鑑定人の意見だ」と断じるのは誤りです。

  • 科学的蓋然性の表現: 筆跡鑑定は、指紋鑑定のように「完全に一致(100%)」と断言するのが難しい識別科学の分野です。この表現は、分析を通じて得られた極めて高い科学的証拠に基づき、「間違いなくそう判断される」という結論の確実さ(蓋然性)を、法律的かつ科学的に慎重に表現したものです。
  • 客観的な分析の積み重ね: 鑑定人は、単に文字を眺めるのではありません。筆圧の変化、運筆の速さ、字画の構成、癖(特徴点)の出現頻度などを形態科学(Pattern Science)に基づいて客観的に計測・比較分析しています。その最終的な総合判断に「主観」はあっても、その根拠は客観的な科学データに基づいています。

2.実務の核心:大切なのは「量」より「比較資料の質」

「鑑定する文字数が少ないと判断が難しい」という指摘は当然のことですが、本当に重要なのは文字の量だけではありません。

  • 比較資料の質がすべて: 専門家が最も重視するのは、偽造が疑われる文書(要鑑定資料)と比較する文書(比較資料)の質的な条件です。具体的には、
    1. 同時期性: 偽造文書作成時期と近い時期に書かれたものであるか。
    2. 同一条件: 同じ筆記具や同じ書式で書かれたものであるか。
    3. 変異の範囲: 筆者が無意識に持つと、筆跡が変化する許容範囲(変異)を正確に分析できる十分な量があるか。
  • 鑑定人は無理をしない: 質の高い資料が不足している場合、専門家は「鑑定不能」と判断します。資料不足を理由に、無理やり「断定」的な結論を出すことはありません。

3.実務の現実:「原本必須」と「指紋鑑定」の混同

「筆跡鑑定には原本が必須であり、コピーでは鑑定できない」という指摘も、実務の現場を知らない見解です。

  • 原本入手が困難な現実: 訴訟や事件の当事者にとって、偽造文書の原本を確保するのは極めて難しいケースが多々あります。
  • コピーでも可能な限り鑑定する: 専門家は、原本に勝るものはないと理解しつつも、提供された複製資料の品質(解像度、鮮明さ)を評価し、可能な範囲で筆跡の特徴を分析します。筆圧の完全な分析は難しいものの、運筆の癖や字形の特徴は分析可能です。
  • 分野の混同: 筆跡鑑定は、文字の筆者を識別する技術であり、指紋の採取や鑑定全く別の専門分野です。両者を並列で語るのは、知識不足と言わざるを得ません。

4.民間鑑定 vs 科捜研論争の誤り

「民間の鑑定と警察の科捜研の鑑定結果が異なった」という事例を挙げ、民間鑑定の信頼性を否定するような議論は短絡的です。

  • 論理と証拠が重要: 鑑定結果が異なる場合、問われるべきは「公的か民間か」ではなく、「どちらの鑑定書が科学的な論理と客観的な証拠に裏打ちされているか」です。民間鑑定人の中には、科捜研出身者や法廷での実績が豊富な、極めて高い技術を持つ専門家も多数存在します。
  • 専門家を選ぶ3つの基準: 鑑定依頼の際は、以下の基準で信頼性を判断してください。
    1. 科学的根拠: 鑑定の過程や根拠が論理的かつ明確に説明されているか。
    2. 法廷実績: その鑑定人が裁判所や法務現場で証拠として認められた実績があるか。
    3. 専門分野: 筆跡鑑定に特化した専門性を持っているか。

まとめ:不確かな情報に惑わされず、専門家に相談を

筆跡鑑定は、偽造文書事件において非常に重要な証拠を提供する専門性の高い科学技術です。その結果が絶対ではない、という限界はありますが、それは他の科学的証拠にも言えることです。

不正確な情報に惑わされず、まずは原本や良質な比較資料を用意し、論理と実績を持つ信頼できる文書鑑定の専門家に相談すること。これが、あなたの権利を守るための最も重要な第一歩です

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