BSHAM®の証拠力はどこから来るのか
― 鑑定書が反対尋問に耐える理由
鑑定書の証拠力を決めるのは、結論の断定の強さではありません。判断過程が検証可能な形で開示されているかです。「鑑定人がそう見たから」で終わる鑑定書は、反対尋問で崩れます。BSHAM®の鑑定書は、どの段で・何を監査し・なぜその結論に至ったかを、第三者が追試できる構造で記載します。
鑑定書には、四段体系がそのまま現れます
BSHAM®の鑑定書は、判定の四段体系(解説はこちら)に沿って構成されます。読み手(裁判官・代理人・相手方)は、どの判断がどの監査段に属し、どの前提に依存しているかを、条文を辿るように確認できます。
1能力監査(該当事案のみ)
書字能力への疑義が争点の場合、主張されている病状と筆跡(運動出力)の物理的整合を検証した過程を記載します。
2鑑定資料単独監査(全件)
対照資料との比較の前に、鑑定資料そのものの内部監査の結果を記載します。通過した場合は「不自然な点は認められない」という否定表現のみで記録され、真正性の積極的証拠としては扱いません。
2の2対照資料監査(全件)
比較の基準となる対照資料も、同じ理論で監査した結果を記載します。他筆の混入を疑わせる所見がなければその旨を、あれば除外した資料と根拠を明記します(全資料監査の原則)。
3反復性監査(判定の核心)
文字・部品・全体の三水準で監査した反復性を、根拠となる箇所の特定とともに記載します。最も強い構造は、鑑定資料に、本人には現れないはずの別の癖が安定して成立している「排他的交差反復性」です。
4数理評価(補助)
確定した所見を保守的な統計手法で数値化します。数値は結論を作るものではなく、結論の堅さを測るものとして位置づけを明記します(数理モデルの解説)。
文体が、根拠の強度と一対一で対応している
BSHAM®の鑑定書では、所見が言い切りの文体で記載されるのは、(1)前提が査読論文または社会的に自明な事実に根拠を置くこと、(2)観察された現象を偽造以外の無害な原因で説明し尽くせないこと、の二要件を満たす場合に限られます。どちらかが欠ける所見は、可能性の指摘にとどめます。
この規律は、一見すると鑑定書を「弱く」見せます。しかし実際は逆です。すべてを断定する鑑定書は、一箇所崩されると全体の信用が崩れます。言い切りと可能性の指摘が根拠の強度で書き分けられた鑑定書は、反対尋問で個々の所見を攻撃されても、対応する根拠がそれぞれ独立に立っているため、全体が崩れません。
なぜ模倣では突破できないのか
偽造者が写せるのは、見えている「形」です。しかし反復性監査が捉えるのは、書き手自身の意識と制御の外側にある運動の生成――複数の文字・部品を横断して現れる方向性の反復です。意識が及ばない複数の水準で、対照資料と相容れない反復が交差して成立しているとき(排他的交差反復性)、それを「偶然の一致」や「上手な模倣」で説明することはできません。この説明不可能性こそが、証拠力の実体です。
加えて、模倣という行為は必ず運筆に代償を残します。形を合わせようとすれば筆は遅くなり、抑揚は平板になる。そのため当研究所は、特徴が一致していることを確認すると同時に、その特徴自体が自然な運筆で書かれているかを併せて調べます。似ているだけでは採用しない、ということです。
「相違が見つからなかっただけではないか」への答え
同一人という結論に対して、相手方からこう問われることがあります。当研究所が同一人の結論に進むのは、次の二つを同時に満たしたときに限られます。
① 別人方向の構造を探した結果、見つからないこと。ここで拙い模倣は排除されます(形そのものが違ってしまうため)。
② 偽造者の目に入らない箇所――拡大して初めて分かる微細な特徴や、線どうしの関係――で一致が多数認められること。ここで巧みな模倣が排除されます(見えないものは真似られないため)。
両方を同時に満たす偽造者は存在しません。だから①の「見つからなかった」は、単なる空振りではなく、意味を持った否定になります。
司法での実証
この監査構造は、実際の法廷で通用しています。仙台高等裁判所令和3年1月13日判決(判例タイムズ1491号57頁)の事件では、当研究所が鑑定書および反論書の作成を担当し、一審の判断の基礎となっていた既存の鑑定は覆って、逆転勝訴となりました。判決で問題とされたのは、結論そのものよりも判断過程――資料がどこまで検証可能か、類似の比較に依拠していないか、判断基準が示されているか――でした(事例の詳細)。
※相手方鑑定書への反論・弾劾については「05. 相手の鑑定書にどう対するか」をご覧ください。


