BSHAM®の数理モデル ― なぜ「控えめな数式」を使うのか

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MATHEMATICAL MODEL

BSHAM®の数理モデル― なぜ「控えめな数式」を使うのか

最初に、最も重要なことを述べます。BSHAM®において、数理は判定の核心ではありません。判定の核心は、反復性監査で確定する構造的所見です。数理の役割は、その所見の堅さを、誰でも検算できる形に翻訳すること――数式から結論が出るのではなく、結論の堅さを数式が測るのです。この順序を守っているからこそ、数値は反論の立つ場所を残さない設計になります。

数値化されるのは「確定した所見」だけです

BSHAM®の判定は四段体系(解説はこちら)で構成され、数理評価はその第4段、つまり最後に置かれています。第3段までの監査で確定した所見――どの文字・どの部品に、どのような反復が成立しているか――が先にあり、数理はそれを入力として受け取ります。

この順序が逆の鑑定、すなわち「数値が高いから同一」と数式に結論を委ねる鑑定は、数式の前提を突かれた瞬間に結論ごと崩れます。BSHAM®では所見が構造として独立に立っているため、仮に数値への反論があっても、所見そのものは残ります。これが法廷における強度の違いです。

ラプラスの継承公式 ― あえて「控えめ」に見積もる

数値化には、ラプラスの継承公式(rule of succession)を用います。測るのは、本人が次に書いたとき、その反復から外れる確率です。これを逸脱確率と呼びます。ある運動特徴が n 回の観察機会のうち m 回反復して現れているとき、逸脱確率を次のように見積もります。

逸脱確率 p = 1 −( m + 1 )/( n + 2 )

m:特徴が反復して現れた回数 n:観察機会の総数

単純な比率ではなくこの式を使う理由は、その保守性にあります。第一に、この式は決してゼロを出力しません。10回の機会で10回反復している強固な癖でも、逸脱確率は約8.3%(1/12)です。「本人なら絶対に外さない」とは、数式の側が言わせてくれない設計になっています。第二に、観察数 n が少ないほど推定は慎重な側へ寄ります。つまり資料が少ない案件ほど、数値は自動的に控えめになります。過大な断定が構造的に生じない仕組みです。

※この式の裏返し(m+1)/(n+2)は「反復する側の確率」です。当研究所が鑑定書に記載するのは、上記の逸脱確率のほうです。鑑定で問うているのが「本人ならこれだけ外すことがあり得るか」だからです。

複数の所見を、水増しせずに統合する

反復性監査は、文字・部品・全体の三水準にわたる複数の運動単位について行われます。これらを統合するとき、当研究所は「それぞれが互いに独立している」という強い前提を置きません。独立性を安易に主張すれば統合後の数値はいくらでも大きくできますが、それは「その特徴は本当に独立か」という反論に即座に崩されるからです。

そこで統合は、次の保守的な規律に従います。共通の原因から生じている特徴は、いくつ挙げられても「一つ」として数えます。たとえば、ある一つの運びの癖から、線の向きと長さの双方に相違が現れているなら、それは連動した一つの原因であり、二つに数えません。そのうえで、互いに共通の原因を持たない運動制御の分類の数だけを、掛け合わせます。

掛け合わせる「分類」は、この五つです

Ⅰ 距離――画と画、部品と部品の間の隔たりの取り方。
Ⅱ 方向――運びが向かう先の取り方。
Ⅲ 連結――画と画をつなぐか、切るか。
Ⅳ 連鎖――運びの順序と、続け方。
Ⅴ 終端――画の終わりの処理(止め・はね・払い)。

この五つは、独立していると主張するために設けたものではありません。掛け合わせの回数に上限をかけるためのものです。どれだけ多くの食い違いを見つけても、掛け算は最大で五回しか行いません。だから当研究所の数値は「少なくともこの程度」という下限であり、上振れしない設計です。

独立した水準を横断して相違が積み重なるほど、偶然という説明は維持しにくくなります――ただしその積み重ねは、水増しを許さないこの数え方の上でのみ認められます。

※この積算が対応しているのは、反復性の崩壊――本人なら安定しているはずの箇所が、鑑定資料で保たれていない――という量的な所見です。もう一方の排他的交差反復性――鑑定資料に、本人には現れない別の癖が安定して成立している――は、数を積み上げて強くなる種類の所見ではありません。一人の手の中に二つの運動プログラムは存在し得ない、という質的な所見です。数理が測るのは前者であり、後者は数値の大小とは別の水準で立っています。

「75%」の正しい位置づけ

当研究所の解説で「75%」という数値が言及されることがありますが、これは判定の基準値ではありません。この数値は「逆転耐性」――仮に次の観察が一つ反対方向に出たとしても、優勢な方向が逆転しない状態――を、継承公式の上で目安として数値化した近似に過ぎません。

判定は「75%を超えたか」という閾値の上下で決まるのではなく、排他的交差反復性という構造が成立したか否かで決まります。閾値による機械的判定は、一見客観的に見えて、実は「なぜその値なのか」という反論に答えを持ちません。構造による判定は、根拠のすべてが筆跡上の特定可能な箇所に対応しているため、検証可能です。

どこまでの数値を目指すのか

当研究所が目指すのは、99%程度です。DNA型鑑定で語られるような「数百万分の一」といった桁は追いません。追えないからではなく、追う必要がないからです。訴訟で問われるのは、その所見が判断過程として審査に耐えるかどうかであり、桁の大きさではありません。むしろ桁を大きく見せようとすれば、独立性の水増しに手を出すことになります。それは前項で自ら禁じたことです。

反論の立つ場所を、あらかじめ塞ぐ設計

①絶対断定を出力しない式を使う(過大主張への反論を封じる)、②少資料では自動的に慎重になる(資料不足への反論を封じる)、③数値は所見の後に置く(数式依存への反論を封じる)、④共通原因を持つ特徴は一つに数え、掛け算は最大五回に限る(「その特徴は独立か」「いくらでも大きくできる」という反論を封じる)、⑤計算過程を全て開示する(ブラックボックス批判を封じる)。当研究所が目指しているのは、強く主張することではありません。反論の立つ場所を残さないことです。

数理が「補助」であることは、弱点ではありません

「数理は補助に過ぎないのか」と問われれば、その通りです。しかしそれは方法論の弱点ではなく、規律です。筆者識別の根拠は、脳の運動生成という物理的実体に立脚した構造的所見にあります。数理はその堅さを測る、検算可能な物差しです。実体のない数値だけの「科学らしさ」と、実体を数値で検証する科学との違いが、反対尋問の場で明らかになります。

判断過程のすべてが、検算できる。
それがBSHAM®の数理モデルです。

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