ある鑑定書に「極めて希少な筆記特徴である」と書いてあった。鑑定書のどこかに「極めて希少」な根拠の記載があるか調べてみたがどこにもない。どうやら,鑑定人の勘ということらしい。
資格制度のない一鑑定人の勘で判断されたらたまったものではない。このような勘が,「同一人の筆跡」と書かれていた鑑定結果に少なからず影響を与えたことは間違いない。
当然のことながら,鑑定人の勘によって作成された鑑定書は証拠能力はない。
多くに知られていないが,「同一人の筆跡」という鑑定結果は,「別人の筆跡」という鑑定結果を出すよりも遥かに難しい手順を踏む必要がある。本人筆跡に恒常的に出現している特徴が,鑑定資料の筆跡と異なっていれば異筆要素として問題はない。いうまでもなく,大勢の人が書く標準の書き方が一致していても同筆要素とはならない。
例えば「水」の第1画の終筆は撥ねて書くのが標準である。鑑定資料にも第1画が撥ねているから「同筆要素」とする鑑定人が非常に多いことは知られていない。
当たり前の話であるが,標準の書き方や分かり易い特徴(偽造者であれば模倣される)の類似で同筆要素とはならないのである。
筆跡鑑定人として大いに恥ずべきであるが,こんな簡単なことすら分からない鑑定人であっても決して淘汰されることはない。
賢い人は容易に理解できると思われるが,「同一人の筆跡」を証明するには,模倣がされにくく且つ希少性のある特徴の複数の一致が必要だ。
ところが,多くの筆跡鑑定人は標準の書き方であろうが,模倣されやすい箇所であろうが知ったこっちゃない。そんなことはお構いなしに,これらの箇所をどんどんと指摘し「同一人の筆跡である」という結果を出しまくる。
すると,彼らの鑑定書は圧倒的に「同一人の筆跡」という鑑定結果になる。私が所有している彼らの鑑定書の95%が「同一人の筆跡である」と記載されているのがその証だ。
ところで,どうやって希少性を証明するのか。当研究所では,同筆の証明には希少性の証明が必須であることからデータベースを所有している。
例えば,カタカナの「ツ」の点画は横並びであるが,「シ」のように点画を縦に並べて書く人もいる。それが希少性がある書き方なのか,そうでないかはデータベースがないとわからない。下図をご覧いただきたい。当鑑定所所有の筆跡データベースによると出現率3%の希少性のある書き方ということが分かる。
同筆の証明には希少性の根拠は欠かせない。データベースすら所有せずに,どんどんと「同一人の筆跡」という鑑定結果を出す鑑定人がいても,それを「おかしい」という者は私しかいない。筆跡鑑定人のレベルがこんなにも低いのに誰もわかりゃしない。いち早く,どっぷりとぬるま湯に浸かっている筆跡鑑定人をなんとかせねばならない。(下図は当研究所所有の筆跡データベース)
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