筆跡鑑定の信頼性—私たちが知るべき「科学」と「課題」

所長コラム

テレビドラマでよく見かける筆跡鑑定。たった一枚の紙から犯人を特定する、その鮮やかな推理に心惹かれる方も多いでしょう。しかし、現実の筆跡鑑定には、一般に知られていない透明性の課題が存在します。鑑定の信頼性を高めるために、私たちが理解しておくべき現状と課題について見ていきましょう。

経験と主観に依存する「伝統的筆跡鑑定」

多くの鑑定機関が採用している伝統的筆跡鑑定は、鑑定人が長年の経験に基づき、筆跡の特徴を総合的に判断する手法です。この手法において特に重要なのが、同じ人が書いても生じるわずかな違い、「個人内変動」です。

鑑定人は、真筆(本人が書いた筆跡)を多数分析し、その人の筆跡が持つ変動の範囲を把握します。そして、鑑定対象の筆跡がその範囲内に収まるかどうかを判断します。しかし、この「変動の範囲」をどのように見極めたのか、その明確な根拠は公開されていません。これが、鑑定が個人の経験や主観に大きく依存していると見なされる一因となり、客観性の欠如という批判につながることがあります。

ブラックボックス化された「数値解析法」

近年、筆跡の形状などを数値化し、コンピュータで分析する数値解析法も普及しつつあります。この手法は一見、非常に科学的に見えますが、こちらもまた課題を抱えています。

最大の課題は、使用するアルゴリズムや公式が「企業秘密」として非公開であることです。これにより、その手法の科学的な妥当性を外部から検証することができません。

さらに、分析によって算出された数値から「同一人物」と判断する「閾値(いきち)」の設定根拠も不明確な場合が多いです。もし、これらの重要な判断基準が統計学的な裏付けなく設定されているとすれば、鑑定結果の信頼性は揺らいでしまいます。

信頼性向上のための提言

筆跡鑑定は、ときに裁判の行方を左右する重要な証拠となります。だからこそ、その鑑定プロセスと根拠には高い透明性が求められます。

筆跡鑑定の信頼性を高めるためには、以下の取り組みが重要です。

  • 鑑定プロセスの透明化: 鑑定の判断に至った根拠を、誰にでも理解できるように説明すること。
  • 客観的データの提示: 手法の有効性を証明するため、多数の偽造筆跡に対する正答率などのデータを公開すること。

筆跡鑑定が、経験や勘だけでなく、誰もが納得できる科学的な根拠に基づいた信頼性の高い分野として発展していくことを期待します。

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