脳科学的筆跡鑑定:筆跡が語る、脳の記憶 📝

所長コラム

筆跡鑑定と聞くと、虫眼鏡で文字の形を比べる古い手法を思い浮かべるかもしれません。しかし、今日の筆跡鑑定は科学的な進化を遂げています。特に、脳科学的筆跡鑑定法は、筆跡を単なる「図形」ではなく、脳に刻まれた「無意識の運動の軌跡」として捉えることで、偽造筆跡の真偽を高い精度で見抜くことができるようになりました。

この記事では、この画期的な鑑定法がどのようなプロセスで行われ、どのように偽造を見抜くのかを、分かりやすく解説します。


1. 脳科学的鑑定法の3つの原則

この鑑定法は、従来の鑑定法が抱えていた「鑑定人の主観性」という問題を解決するために、以下の3つの原則に基づいています。

  • 「筆跡個性」の恒常性を探る: 人が文字を書く行為は、自転車に乗るのと同じように、無意識に体が覚えている手続き記憶に基づいています。この無意識の運動の記憶が、その人固有の「書き癖」として筆跡に現れます。鑑定では、この書き癖が常に安定して一貫性(恒常性)を持っているかどうかに焦点を当てます。
  • 「個人内変動」の曖昧さを排除する: 従来の鑑定法では、筆跡の自然な「ブレ」を「個人内変動」として捉え、鑑定結果を曖昧にする原因となっていました。脳科学的鑑定法では、この「ブレ」をさらに詳しく分類します。筆記具や体調、感情の起伏による短期的な変動と、手続き記憶に刻まれた長期的な恒常性を明確に区別します。これにより、偽造による差異と本人の筆跡の自然な「ブレ」を、科学的に見分けることが可能になります。
  • 希少性の高い「書き癖」を特定する: 模倣されやすい「ありふれた特徴」の一致を根拠とせず、模倣が極めて困難な、希少性の高い書き癖の一致に焦点を当てます。これを実現するために、大規模な筆跡データベースを活用し、特定の筆跡特徴がどれくらいの頻度で現れるかを客観的に評価します。

2. 鑑定プロセスの詳細

鑑定は、以下のステップで進められます。

  • ステップ1:真筆の「筆跡個性」を特定する まず、本人の筆跡である対照資料を徹底的に分析し、そこに恒常的に現れている無意識の「筆跡個性」を特定します。これは、偽造が疑われる鑑定資料と比較した際に「相違」する可能性のある箇所に特に注目して行われます。
  • ステップ2:「異筆」であるかどうかの判断 対照資料で特定された「筆跡個性」が、鑑定資料には明確に出現していない箇所が複数見つかった場合、それは別人による筆跡(異筆)であると判断されます。
  • ステップ3:巧妙な偽造筆跡を見破るための追加調査 「異筆」と断定できない場合や、異筆要素がわずかである場合は、さらに詳細な追加調査が行われます。これは、偽造者が意図的に真筆に似せようとした結果生じる不自然さを探すプロセスです。
    • 「恒常性の崩れ」の調査: 偽造者は、真筆を真似ようと意識的に努力します。この意識的な介入が、本来安定しているはずの「書き癖の恒常性」を不自然に崩します。熟練した鑑定人は、この乱れを鋭敏に検知することで、巧妙な偽造筆跡を見抜きます。
    • 微細な特徴の分析: 肉眼では捉えにくい、模倣が極めて困難な微細な特徴の一致や相違を詳細に分析します。例えば、筆圧の変化、線の流れ、筆記速度の加速度など、無意識の動きを数値化して比較します。

3. 事例:無意識の乱れが語る偽造のサイン

ある自筆証書遺言書の鑑定を例に見てみましょう。

【真筆の例】 被相続人の普段の筆跡(対照資料)を見ると、文字の終筆部(書き終わり)で、筆圧が自然に抜けて線が細くなるという、一貫した「書き癖」が見られました。これは、手続き記憶による無意識の運動の現れです。

【偽造が疑われる遺言書の例】 一方、偽造が疑われる遺言書(鑑定資料)を見ると、文字の形は似ているものの、終筆部で筆圧が均一であったり、不自然に止まっている箇所が複数見られました。これは、偽造者が「形」を真似ることに集中し、筆圧の変化という無意識の運動パターンを再現できなかった結果です。

この「恒常性の崩れ」こそが、その筆跡が偽造であることの強力な証拠となります。


4. 信頼性の向上と司法判断への貢献

従来の筆跡鑑定法は、主観性に左右される可能性から、司法の場での証拠能力に限界があると言われてきました。しかし、脳科学的筆跡鑑定法は、客観的なデータと科学的知見に基づいているため、公正な判断に大きく貢献します。

この鑑定法は、裁判でもその考え方が肯定されるなど、司法の場でもその重要性が認識されつつあります。筆跡は、ただの文字ではなく、あなたの脳が記憶している無意識の運動の軌跡。脳科学的筆跡鑑定は、その真実を解き明かすための鍵なのです。

この鑑定法について、さらに詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。

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