筆跡鑑定と聞くと、皆さんはどんなイメージを持つでしょうか?探偵ドラマに出てくるような、専門家が虫眼鏡で文字をじっくりと見比べるシーンを思い浮かべるかもしれません。
しかし、筆跡鑑定にはさまざまなアプローチがあり、それぞれ目的や科学的根拠が大きく異なります。今回は、特に混同されがちな「脳科学的筆跡鑑定」と「グラフォロジー(筆跡心理学)」の違いについて、分かりやすく解説します。
脳科学的筆跡鑑定:脳の「手続き記憶」を科学する
筆跡鑑定は、文字の書き方から筆者が誰であるかを特定することを目的とした科学捜査の一環です。
このアプローチの鍵となるのが、脳の「手続き記憶」です。手続き記憶とは、自転車に乗ったり、楽器を演奏したりするのと同じように、繰り返し練習することで身につく、無意識的に行われる運動技能や習慣のこと。文字を書く行為も、私たちが幼い頃から繰り返し練習してきたことで、脳にこの手続き記憶として深く刻み込まれています。
一人ひとりの脳は固有のパターンを持っているため、手続き記憶として定着した筆跡にも、その人ならではの個性や特徴が表れます。脳科学的筆跡鑑定は、この無意識に表れる筆跡の特徴を客観的に分析し、筆跡の同一性を科学的に証明しようとするものです。これは、個人の性格を診断するものではなく、あくまでも法科学的な手法として用いられます。
グラフォロジー:筆跡から性格を分析する
一方、グラフォロジーは、「筆跡から書き手の性格や心理傾向を分析する」ことを目的とした手法です。別名「筆跡心理学」とも呼ばれます。
たとえば、「筆圧が強い人は意志が強い」「文字が大きい人は外交的」といったように、筆跡の特徴と特定の性格的側面を結びつけて解釈します。
ただし、グラフォロジーは科学的な手法として広く認められているわけではありません。その分析結果には明確な統計的裏付けや再現性が乏しく、分析者の主観的な解釈に依存する傾向が強いとされています。そのため、法的な鑑定や科学的な根拠を必要とする場面で採用されることはほとんどありません。グラフォロジーは、自己分析やエンターテイメントとして楽しまれることが多い分野です。
まとめ
同じ「筆跡」を扱うものでも、脳科学的筆跡鑑定とグラフォロジーは、その目的も科学的根拠も根本的に異なります。
- 脳科学的筆跡鑑定:筆者の同一性を科学的に特定する
- グラフォロジー:性格や心理を主観的に分析する
このように、両者は全くの別物です。もし「筆跡から性格診断します」という話を聞いたら、それは「脳科学的筆跡鑑定」ではなく「グラフォロジー」なのだと理解しておくと、その違いがより明確になるでしょう。
皆さんの周りにも、つい見比べてしまうようなユニークな筆跡の持ち主はいますか?


