相続や重要な書類をめぐる争いで、筆跡の真贋が問題になることは少なくありません。従来の鑑定が主に文字の形を比較するのに対し、病気や加齢で筆跡は変化します。そこで、私は「脳科学的筆跡鑑定法」という新しい鑑定手法を考案しました。これは、従来の鑑定の限界を克服し、筆跡に隠された真実を読み解くことを目指しています。
🧠 筆跡は脳の「無意識の運動」が作り出す
私たちは、自転車に乗ったり、ピアノを弾いたりするのと同じように、文字を書くときも、一文字ずつ形を意識しているわけではありません。これは、繰り返しの練習によって、文字を書くという動作が「手続き記憶」として脳に定着しているからです。
この「手続き記憶」は、大脳皮質の運動野や小脳といった複数の脳領域が連携して働く、無意識的な運動プログラムです。このプログラムこそが、一人ひとりの筆跡に固有の「個性」として現れます。脳科学的筆跡鑑定法では、この「無意識の運動パターン」を分析することで、筆跡の真贋を見極めます。
✅ 従来の鑑定との違い:筆跡と状況の整合性
この鑑定法の最大の強みは、単なる筆跡比較に留まらず、筆記が行われた当時の身体的・環境的状況と、筆跡に現れる様々な特徴との間に矛盾がないかを徹底的に検証する点にあります。
例えば、病気で手が震えるようになったAさんのケースを考えてみましょう。従来の鑑定では、元気だった頃の安定した筆跡と、病気で震えが加わった筆跡を比較し、「別人によるもの」と判断されるリスクがありました。
しかし、脳科学的筆跡鑑定法では、カルテや診断書だけでなく、筆記時の姿勢(ベッドに寝ていたか)、筆記用具や用紙がその場所に存在したか、さらには看護師の回診記録といった多角的な情報を綿密に調査します。そして、筆跡に現れた震えや乱れが、これらの状況に起因する自然な変動なのかを総合的に判断します。偽造筆跡では、これらの細かな身体的・環境的状況まで完璧に再現することは極めて困難です。
💡 結論と将来の展望
この手法は、病気や加齢によって筆跡が変化したケースにおいて、従来の鑑定では見落とされがちだった「なぜ筆跡が変わったのか」という動的な側面を科学的に解明する可能性を秘めています。
本手法は、法科学分野における信頼性の確立を目指して、現在も研究・検証が進められています。今後は公開検証を実施し、第三者機関の評価を受けることで、高い正答率を証明していくことを目指しています。これにより、鑑定の標準として広く認知されることを期待しています。
もし筆跡の真贋でお悩みの場合、従来の鑑定に加え、このような新しいアプローチを専門とする機関に相談してみることも、一つの選択肢となるでしょう。


