タブレット署名が同筆証明に向かない理由

所長コラム

タブレットへの署名が筆跡鑑定に向かない理由は、主に以下の3点に集約されます。

1. 筆跡の特徴を失う

筆跡鑑定は、筆者の無意識の癖を捉えることが重要です。紙に書く署名には、運筆の強弱、線の太さや濃淡、インクのかすれといった、書き手の筆圧や運筆速度といった動的な情報が静的な筆跡として残ります。しかし、多くのタブレットシステムでは、これらの情報が記録されません。特に、筆圧が失われることで、払いや止めの筆使いといった重要な特徴が判別できなくなります。

2. 意識介入の可能性が高い

ガラス面という独特な書き心地や、タブレットペンの滑りやすさは、普段の紙にペンで書く感覚とは大きく異なります。この違和感から、署名者が無意識のうちに書くべき筆跡に、意識的な介入が入る可能性が高まります。意識的に書かれた筆跡は、普段の筆跡とは異なる特徴を示すことがあり、鑑定の妨げとなります。

3. 比較対象としての不適格性

タブレットへの署名は、書き損じや修正が多発しがちです。修正するまでもない書き損じがデータとして残ってしまうと、比較する署名としては不適格です。また、紙の署名では文字の大きさがある程度一定に保たれる「恒常性」が鑑定の重要な視点となりますが、タブレットでは画面の拡大縮小によって文字の大きさが変わりやすく、この恒常性を調査できません。

以上の理由から、タブレット署名は筆者の特徴を十分に記録できず、同筆を証明するための根拠に乏しいため、将来的に真贋を巡る争いが生じた場合、そのデジタルデータが有効な証拠として認められない、または判別が非常に困難になることが予測されます。


筆跡鑑定の精度を高める代替案

では、どのようにすれば良いのでしょうか?最も確実な解決策は、紙に署名し、その署名をデジタルデータとして保存するという方法です。この方法であれば、筆圧や運筆の動きといった重要な動的情報が筆跡に残り、それをスキャンや高解像度で撮影することで、筆跡鑑定に必要な情報量を保ったままデジタル化できます。この方法は、利便性と筆跡鑑定の精度の両方を満たす優れた方法と言えるでしょう。

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