「科学的」に見える筆跡鑑定書の裏側:なぜ数値計測は無意味なのか?—ノイズ計測の根本的欠陥

所長コラム

私は、トラスト筆跡鑑定研究所の二瓶淳一です。従来の筆跡鑑定法(特に多変量解析法を用いる数値解析)は、理論的・統計的に破綻した手法であり、その原因は鑑定の土台となる計測方法にあります。

特定の事例ではなく、どの鑑定にも共通する構造的な欠陥、すなわち「ノイズ計測の根本的欠陥」について、詳しく解説します。


1. 数値解析法が依拠する計測の仕組み

従来の数値解析法は、筆跡を客観的に見せるため、以下の手順で文字を数値化し、相関分析、クラスター分析、主成分分析などの多変量解析にかけます 。

計測の要素鑑定法が設定する定義(一般論)
基線(基準線)筆跡の大きさを揃えるための基準として、始筆部、転折部、終筆部などの筆跡上の2点を選択する 。
測定点始筆部、筆転折部、終筆部などを二次元の座標点(x、y座標)として測定する 。
数値化筆跡(文字)を拡大後、測定点のx,y座標を読み取り、基線の長さで除して規格化する 。

2. 最大の欠陥:「基準線」が捉えるのは個性ではなく「ノイズ」

私は、この「静的な形状(始筆部、転折部など)を基線として座標点を測る」という手法こそが、科学的破綻の根本原因であると指摘します。

【致命的な問題点】

  • 無意識の恒常性の無視: 筆跡の真の個性は、意識的な努力では変えられない「無意識の運動プログラム(手続き記憶)」に宿る動的な恒常性(筆速、筆圧法則など)です。しかし、従来の鑑定法はこれを無視しています。
  • 基準線は「ノイズ」を計測する: 基線や測定点として用いられる始筆部、転折部、終筆部といった文字の静的な形は、体調、姿勢、筆記状況などによる一時的な変動(ノイズ)の影響を非常に受けやすい部分です 。
  • 鑑定は「偶然の産物」となる: ノイズを捉えた計測結果は、単なる偶然の産物です 。その計測値は、筆者を識別する能力が極めて限定的となります 。

🛑 結論: 従来の数値解析法は、恒常的な個性ではないノイズを計測の基盤としてしまうため、鑑定結果に科学的な意味を持たせません

3. この欠陥が鑑定書にもたらす現実的な危険性

この根本的な欠陥は、裁判所に提出される鑑定書全体の信頼性を損ないます。

  1. 統計的根拠の喪失: ノイズを計測対象とすることで、統計的に必要な「30個の壁」(最低30個のサンプル)が満たされても、その後の分析はノイズを恒常的なものと誤認するリスクが極めて高くなります 。
  2. 偽造への無力化: 偽造者は、鑑定対象となるノイズ(たまたま似た線の長さなど)を容易に模倣できるため、鑑定の結論は偽造者の技量に左右されます 。
  3. 「閾値」の破綻: ノイズに基づく計測値が算出されたとしても、「何点以上なら同一人物」とする判断境界線(閾値)の設定根拠は不明確であり、エラー率も不明なため、鑑定結果は単なる専門家の個人的見解に過ぎません 。

次の記事では、この理論的破綻を裏付ける「閾値設定の不透明性」と「偽造者が鑑定書を作成可能となる異常事態」について、さらに深く告発します。

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