裁判において、証拠の信頼性は極めて重要です。特に筆跡鑑定は、遺言書や契約書の真偽を判断するうえで欠かせない手段ですが、その信憑性が長年問われ続けています。なぜでしょうか?
その最大の理由は、日本に筆跡鑑定人の公的な資格制度がないことと、統一された鑑定法が存在しないことです。この現状は、鑑定人によって結論がバラバラになるリスクを生み出し、裁判の公正さを揺るがしかねません。
さらに悪質なケースとして、一部の鑑定人が、過去に裁判所から依頼を受けた経験があるというだけで、「裁判所から依頼を受けた信用性のある鑑定所」だと謳い、依頼者を欺くような宣伝をしている実態があります。これは依頼者にとって、信頼できる鑑定人を選ぶ際の大きな障壁となっています。
こうした現状を変え、鑑定業界全体の底上げを図るために、私は裁判所へのある提案を考えました。それは、鑑定人を選任する際に、たった一つの質問を付け加えることです。
「公開検証に参加する意思はありますか?」
裁判所が鑑定人に「公開検証に参加する意思はありますか?」と問いかけるだけで、筆跡鑑定の信頼性は大きく向上すると考えられます。
この質問の目的は、大きく分けて2つあります。
- 鑑定人の実力を自覚させる: 自分の鑑定能力が公開の場で問われる可能性があると知ることで、鑑定人はより客観的で科学的な鑑定法を用いるようになります。これは、鑑定の質の向上に直結します。
- 不適切な鑑定人を排除する: 鑑定能力に自信のない鑑定人は、この質問に難色を示すでしょう。その結果、裁判所は依頼する鑑定人を厳選できるようになり、能力の低い鑑定人が安易に裁判に関与するリスクを減らせます。
公開検証「模倣筆跡チャレンジ」とは?
この「公開検証」の具体例として、私は「模倣筆跡チャレンジ」を提案します。
【企画概要】 公平な第三者機関が、高度に模倣された筆跡と、その真の筆者の鑑定資料を準備します。参加する鑑定人の方々には、この偽造筆跡と真正の筆跡を鑑定していただき、その正答率を公開の場で検証します。
【具体的な効果】
- 鑑定の「見える化」: 鑑定の過程や結果が透明化され、どの鑑定法が科学的根拠に基づいているかが明らかになります。
- 信頼性の向上: 依頼者は、正答率の高い鑑定人や信頼できる鑑定法を明確に知ることができます。
- 業界の健全化: 質の低い鑑定人は淘汰され、高い専門性を持つ鑑定人が正当に評価される環境が生まれます。
もちろん、この方法には鑑定人全員に強制力を持たせることはできません。しかし、この一言を裁判所が問うだけで、現状において最も効果的な、そしてコストのかからない方法ではないでしょうか。
この提案が、筆跡鑑定業界の健全な発展と、公正な司法の実現に繋がることを願っています。


