筆跡鑑定という名の「ブラックボックス」。その欺瞞はすべて「情報の非対称性」の上に成り立っている。

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なぜ、あなたは「専門家」を信じてしまうのか?

もしあなたが、ご家族の遺言書に不審な点を見つけ、筆跡鑑定を依頼しようと考えたとします。 インターネットで検索すると、「創業〇〇年」「裁判所嘱託の実績」「最新科学機器を導入」といった、もっともらしい言葉が並ぶ鑑定所のサイトが見つかります。

あなたは、そこに書かれていることを信じますか? おそらく、多くの人が信じてしまうでしょう。なぜなら、相手は「専門家」であり、自分は「素人」だからです。

しかし、この業界の裏側を知る私たちは断言します。 現在、日本の筆跡鑑定業界に蔓延している欺瞞の数々は、まさにこの「専門家と素人の知識の格差(=情報の非対称性)」を悪用することで成り立っているのです。

今回は、なぜニセ科学がはびこるのか、その構造的なカラクリを解き明かします。


「情報の非対称性」とは何か?

少し難しい言葉ですが、仕組みは単純です。

例えば、あなたが中古車を買うとします。 ディーラー(売り手)は、その車の事故歴やエンジンの調子などの「真の情報」を全て知っています。 しかし、あなた(買い手)は、外見が綺麗かどうかくらいしか分かりません。

この「売り手と買い手の持っている情報量に圧倒的な差がある状態」を「情報の非対称性」と呼びます。

この状態では、知識のある側(売り手)が、知識のない側(買い手)を騙して、質の悪いものを高く売りつけることが容易になります。これを経済学では「レモン市場(不良品市場)」と呼びますが、残念ながら、現在の筆跡鑑定業界はまさにこの状態に陥っています。


筆跡鑑定における「知識の格差」の悪用

では、筆跡鑑定の現場では、この「情報の非対称性」がどのように悪用されているのでしょうか?

1. 「経験と勘」というブラックボックス

従来の多くの鑑定人は、「長年の経験と勘」を売りにしています。 「私の30年の経験から見て、このハネ方は本人のものではない」と断言されたとき、素人である依頼者は反論できるでしょうか?

できません。「先生がそう言うなら…」と信じるしかありません。 しかし、その判断基準は鑑定人の頭の中にしかなく、客観的な証拠は何一つ示されていません。これが「情報の非対称性」を利用した最も古典的な手口です。検証不可能な「権威」で押し切るのです。

2. 「ニセ科学用語」による煙幕

さらに悪質なのが、科学を装うケースです。

「私たちは最新の多変量解析を行っています」 こう言われると、統計学の知識がない一般の依頼者は「なんだかすごそうだ、信頼できそうだ」と思ってしまいます。

しかし、前回の記事でも触れた通り、彼らが実際に使っているサンプル数は、統計解析には到底足りない「たった数点」であることがほとんどです。 彼らは、「依頼者は統計学の知識(=情報)を持っていない」ということを知った上で、専門用語を「相手を煙に巻くための呪文」として悪用しているのです。


騙されないために必要なこと

「情報の非対称性」がある限り、知識を持たない側は常に搾取されるリスクに晒されます。

では、どうすればこの構造から抜け出せるのでしょうか? 依頼者自身が筆跡鑑定の専門家になる必要はありません。しかし、「ブラックボックスの中身を見せろ」と要求する姿勢を持つことが不可欠です。

  • 「経験や勘ではなく、誰が見ても分かる数値データを見せてください」
  • 「多変量解析とおっしゃいますが、サンプル数はいくつですか? エラー率は何%ですか?」

本物の科学に基づいた鑑定所であれば、これらの質問に喜んで、分かりやすく答えるはずです。なぜなら、情報を開示することが自らの信頼性を高めるからです。

逆に、情報を隠そうとしたり、難しい言葉でごまかそうとするならば、それは「情報の非対称性」を利用してあなたを騙そうとしている証拠です。

「権威」を盲信するのではなく、「情報」を要求すること。 それが、筆跡鑑定の欺瞞から身を守る唯一の手段なのです。

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