「最新機器=高精度」の罠。筆跡鑑定で本当に見るべき『信憑性』の正体とは?

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~数値だけの鑑定書が裁判で負ける理由~

「筆跡鑑定を依頼したいけれど、どの業者の言うことが正しいのかわからない」 「ホームページに最新鋭の機械が載っているから、ここなら安心だろうか?」 「『科学的』と書いてあるのに、裁判で証拠として弱いと言われてしまった…」

筆跡鑑定を検討されている多くのお客様(私)が、このような疑問や不安を抱えています。 ネットで検索すると、「AI解析」「多変量解析」「最新の鑑定機器」といった言葉を並べ立てるサイトが多く見受けられます。一見すると非常に科学的で信憑性が高いように感じるかもしれません。

しかし、現役の筆跡鑑定人として、はっきりと申し上げます。 「高価な機械」を持っていることと、「誰が書いたかを見抜く能力(筆者識別)」は、全くの別物です。

本記事では、業界にはびこる「ニセ科学(ブラックボックス)」の正体を解き明かし、裁判で本当に戦える「論理的な信憑性」とは何かを解説します。


1. 騙されてはいけない。「物理検査」と「筆跡鑑定」の決定的な違い

多くの大手鑑定機関のサイトで、誇らしげに掲載されている「VSC(画像スペクトルコンパレーター)」や「ESDA(静電筆圧痕検出装置)」。これらは数百万〜数千万円もする、警察の科捜研でも使われる素晴らしい機器です。

しかし、ここに大きなトリックがあります。 これらは「改ざんの有無(インクの違いや消された跡)」を見るための機械であり、「誰が書いたか(筆者識別)」を判定する機械ではないのです。

「コピー資料」でその機械、どうやって使うんですか?

さらに、もっと根本的な話をしましょう。 これら物理検査機器は、原本(実際に書かれた紙そのもの)」がなければ、何一つ検査できません。

コピーやPDFデータは、紙の凹凸やインクの成分情報が失われた「ただの画像」です。コピー用紙をいくら高額な機械に入れても、筆圧痕やインクの成分が出ることは、物理的にあり得ないのです。

ここで、現在の裁判実務を考えてみてください。 弁護士や裁判所から送られてくる鑑定資料は、多くの場合「コピー(写し)」や「PDFデータ」です。 原本が提出されるケースもありますが、その場合でも、厳重に管理された原本を民間の鑑定会社に持ち出し、機械にかけることが許可されるとは限りません。

つまり、実務の現場では:

  1. 資料が「コピー」であれば、そもそも機械は使えない。
  2. 資料が「原本」であっても、インク成分や筆圧痕の検査が必要になるケースは極めて稀である。

「当社は最新鋭の機器を持っています!」と宣伝していても、あなたの手元にある資料がコピーであったり、通常の筆跡鑑定(人定検査)であれば、その機械はただの置物になってしまう可能性が高いのです。

業界の裏話:15年間で「一度も」ない

実際、私の15年以上のキャリアにおいて、筆圧痕を検出する「ESDA」のような特殊装置が不可欠だった案件は、記憶にある限りほとんどありません。 また、インクの違い(加筆の有無など)を調べる「赤外線調査」についても、実は数千万円のVSCなど使わずとも、適切な赤外線カメラ(数万円程度)があれば十分に正確な判定が可能です。

「滅多に使わない、かつ安価な代替機で済む検査」のために、過剰な設備投資をアピールし、鑑定料を吊り上げているとしたら……それは本当にお客様のためと言えるでしょうか?


2. 「数値解析」の致命的な欠陥:その数字に根拠はありますか?

最近のもう一つのトレンドとして、「多変量解析」「数値解析」といった難解な統計用語を用いて、信憑性をアピールするケースがあります。 「コンピュータで解析した結果、類似度は92%でした」 こう言われると、多くの人が「客観的で間違いがない」と感じてしまいます。

しかし、統計学の基本を知っていれば、筆跡鑑定における数値解析には、隠しきれない2つの致命的な欠陥(脆弱性)があることがわかります。

① 統計を語るには「サンプル数」が少なすぎる

本来、統計学を用いて信頼できる結果を出すには、数百、数千という膨大なデータが必要です。 しかし、実際の筆跡鑑定(特に裁判)で手に入る資料は、多くても数点、少なければ1〜2点しかありません。

たった数個の文字データから数値を出し、それを統計的根拠として主張するのは、「たった1回バットを振っただけの選手を見て、その生涯打率を予測する」ようなものです。 科学的に見れば、サンプル数が圧倒的に不足している状態での数値解析は、誤差の範囲が大きすぎて「無意味」と言わざるを得ません。

② 「閾値(しきい値)」設定の恣意性という闇

さらに深刻なのが、合致・不合致を決める境界線、すなわち「閾値(しきい値)」の問題です。

例えば、AIやコンピュータが「類似度85点」という数字を出したとします。 では、「何点以上なら本人(同筆)」で、「何点以下なら別人(異筆)」なのでしょうか? 80点以上なら本人? それとも90点以上?

実は、この合格ライン(閾値)を決めているのは機械ではなく、結局のところ「人間(鑑定人)」のさじ加減なのです。 もし鑑定人が「本人だ」という結論に誘導したければ、閾値を下げればいい。「別人だ」と言いたければ、閾値を上げればいい。

数値解析は一見客観的に見えますが、その判定基準(ライン引き)そのものがブラックボックスであり、極めて恣意的(その時の都合次第)に操作できてしまうもっとも脆弱な手法なのです。


3. 真の信憑性とは「論理の透明性」である

数値や機械に頼れないのであれば、何を信じればいいのでしょうか? それは、「なぜ別人(あるいは本人)であるか」を、誰が聞いても納得できるように論理的に説明できること(透明性)です。

私が採用している「BSHAM(脳科学的筆跡鑑定法)」では、筆跡を単なる「図形」ではなく、脳からの指令による「運動の痕跡」として捉えます。 そして、以下の三大体系に基づいて論理を構築します。

  1. 恒常性(Stability): その人の書き癖は、体調や環境が変わっても安定して出現しているか?
  2. 希少性(Rarity): ここが最も重要です。「単に似ている」だけでは証拠になりません。その特徴が、「他人には滅多に見られない特殊な癖(希少性)」であるかどうかを検証します。
  3. 再現性(Reproducibility): 何度書いても、同じ筆記運動の特徴が現れるか?

機械的な「一致率」ではなく、「他人が偶然これと同じ文字を書く確率は、論理的・生理的に極めて低い」という事実を、BSHAMのロジックによって積み上げます。 これこそが、恣意的な閾値操作が入る余地のない、裁判官を納得させる「真の科学」なのです。


4. なぜ、あえて「100%」と言い切らないのか?

信頼できる鑑定書とは、「誤判別リスク」を正直に考慮したものです。 たとえ解析結果が限りなく黒に近くても、資料の状態や経年劣化などの不確定要素を考慮し、保守的な確率設定(論理的防御線)を行います。

「自信がない」のではありません。「想定されるあらゆる反論を考慮しても、なおこの結論に至る」という、極めて強固な論理の裏返しなのです。この誠実な姿勢こそが、法廷という厳格な場での信頼(証拠能力)に繋がります。


まとめ:機械ではなく「論理」を選んでください

筆跡鑑定は、あなたの財産、名誉、そして人生そのものを左右する重要な証拠となり得ます。

Webサイトを彩る「立派な機械の写真」や「もっともらしい統計用語」だけに惑わされないでください。 鑑定機関を選ぶ際は、ぜひ次の質問を投げかけてみてください。

  • 「私の資料はコピーですが、その高額な機械は使えるのですか?」
  • 「その数値解析の合格ライン(閾値)は、誰がどのような根拠で決めたのですか?」

その問いに対して、機械のデータに逃げず、明確な論理と言語で答えられる鑑定人こそが、あなたの真の味方となるはずです。 他社での鑑定結果に疑問をお持ちの方の、セカンドオピニオンも承っております。まずは一度、ご相談ください。

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