従来の筆跡鑑定の世界では、「文字の形」や「ハネ・ハライの長さ」を比較することに主眼が置かれてきました。しかし、私たちBSHAM™(脳科学AI筆跡鑑定®)の視点は根本的に異なります。
私たちが解析しているのは、紙に残されたインクの形ではなく、その背後にある「脳の指令系統」です。
今回は、運動制御の最終司令塔である「M1(一次運動野)」に焦点を当て、真の筆跡と偽造筆跡が、脳内でどのような異なるルートを通って出力されるのかを解説します。
1. 実行の最終司令塔「M1(エム・ワン)」とは?
私たちが文字を書くとき、最終的に指先や筋肉に「動け」という指令を出す脳の部位があります。それがM1(Primary Motor Cortex / 一次運動野)です。
[Image of brain motor cortex diagram]M1は、いわばオーケストラの指揮者や、現場監督のような存在です。
脳の様々な場所(意識的な思考や、無意識の記憶など)で練り上げられた「運動計画」は、最終的にすべてこのM1に集約されます。そしてM1が、脊髄を通じて手や指の筋肉へ電気信号を送ることで、初めて文字が書かれます。
重要なのは、M1自体は忠実な実行役であり、「誰がM1に命令を下したか」によって、出力される筆跡の質が劇的に変わるという点です。
2. 2つの命令ルート:「無意識の高速道路」と「意識の渋滞路」
筆跡鑑定において、本人の真正な筆跡(Approved)と、偽造や一時的な筆跡(Rejected)を分けるのは、M1に至るまでの「命令ルート」の違いです。
A. 真の筆跡:基底核ルート(スムーズな命令)
長年書き慣れた自分の名前などの筆跡は、脳深部の「大脳基底核」に「手続き記憶(Procedural Memory)」として保存されています。
ここからの指令は、思考を介さず、自動的かつ高速にM1へ送られます。
- ルート: 大脳基底核(記憶) → M1 → 筋肉
- 特徴: 迷いがなく、滑らかで、一定のリズムを持つ「弾道運動」となる。
B. 偽の筆跡・一時運動:皮質ルート(過剰な介入)
一方で、他人の筆跡を真似る(偽造)場合や、慣れない文字を書く場合、脳は「形」を目で見て確認しながら書く必要があります。
この時、視覚野(目で見る)や前頭前野(考える)が、M1に対して「もっと右へ」「ここで止めて」「似せろ」といった細かい修正命令を過剰に送り続けます。これを「意識的介入」と呼びます。
- ルート: 視覚野・前頭前野(意識・修正) → M1 → 筋肉
- 特徴: 指令が混雑するため、線に微細な震え(振戦)や、不自然な停滞(ためらい)、筆圧の異常が生じる。
3. BSHAM™が視る「意識の汚染」
従来の鑑定手法が「完成された文字の形(静止画)」を見ているのに対し、BSHAM™は「運動のプロセス(動画的痕跡)」を解析します。
M1に対して、「大脳基底核(無意識)」がスムーズに指令を出しているのか、それとも「前頭前野(意識)」が無理やり介入して修正命令を出しているのか。
前頭前野による無理なコントロールは、必ず筆跡の運動データに「意識の汚染(Conscious Contamination)」と呼ばれるノイズを残します。人間が意識的に筋肉を制御しようとすると、無意識の運動に比べて反応速度が遅れ、滑らかさが失われることは、生理学的に避けられない事実だからです。
4. 結論:筆跡鑑定は「脳内捜査」である
筆跡鑑定の核心は、文字が似ているかどうかではありません。
「その線を書かせたのは、無意識の記憶か? それとも意識的な模倣か?」
という、M1への命令主(コマンダー)を特定することにあります。
BSHAM™は、数値解析と脳科学的知見を用いることで、この目に見えない「脳内の命令ルート」を客観的に可視化します。「形」にとらわれない科学的アプローチこそが、真実を明らかにする唯一の鍵なのです。


