最近、遺言書の有効性を巡る裁判、いわゆる「遺言無効訴訟」が減少傾向にあると言われています。一見すると、これは遺族間の争いが減り、円満な相続が増えている証拠のように思えるかもしれません。しかし、その背景には、私たちの司法制度が抱える、より深刻な問題が潜んでいる可能性があります。
裁判所が筆跡鑑定を軽視する「もしも」
これまで遺言書の真偽を巡る裁判では、専門家による「筆跡鑑定」が重要な証拠として扱われてきました。しかし、一部では、裁判所が筆跡鑑定の結果よりも、個々の裁判官の「心証」や、遺言書作成時の状況など、いわゆる「状況証拠」を重視する傾向にあると指摘されています。
もしこれが事実だとすれば、筆跡鑑定という科学的・客観的な証拠が正当に評価されないことになります。遺言書の偽造を疑う側にとって、筆跡鑑定は有力な武器であるはずなのに、それが「無駄」だと判断されれば、正義を追求する道が閉ざされてしまいます。
弁護士が受任を避ける理由
この傾向は、法律の専門家である弁護士の行動にも影響を与えています。
弁護士は、依頼者の権利を守るために最善を尽くします。しかし、裁判所が筆跡鑑定を軽視し、状況証拠が乏しいケースでは勝訴の見込みが薄いと判断すれば、依頼を引き受けることを躊躇せざるを得ません。
その結果、たとえ偽造された遺言書であっても、状況証拠がなければ裁判に持ち込むことすら困難になり、被害者は救済の機会を失ってしまいます。
司法アクセスの閉鎖
これは、単に「遺言無効訴訟が減った」という表面的な話ではありません。
- 被害者の権利救済が困難に:正当な理由で訴えたい人が、弁護士を見つけられず、泣き寝入りする可能性が高まります。
- 偽造の横行:偽造遺言書がまかり通る社会は、法を軽んじる行為を助長し、不当な相続を増やすことにつながります。
- 司法の信頼性低下:客観的証拠よりも心証が優先されるならば、公正な判断が下されているのかという疑念が生じ、司法制度そのものへの信頼が揺らぎます。
遺言無効訴訟の減少は、決して「争いが減った」という良いニュースだけではないかもしれません。もし、その背後に司法制度の機能不全があるならば、私たちはその問題に目を向け、真実を追求する公正な社会を維持するために、何ができるかを考える必要があるでしょう。


