ご家族が遺された自筆証書遺言。しかし、もしそれが偽造されたものだとしたら…?
近年、自筆証書遺言の偽造に関するご相談が増えています。ここでは、筆跡鑑定の専門家が着目する「偽造」の特徴を、信頼できる筆跡鑑定書(トラスト筆跡鑑定研究所の「脳科学的筆跡鑑定書総論抜粋版」)を参考に、わかりやすくご紹介します。もしも「もしかして?」と感じたら、専門家への相談を検討するきっかけにしてください。
偽造された遺言書によく見られる13の特徴
偽造された自筆証書遺言には、いくつかの共通する特徴があります。鑑定書でよく指摘されるポイントを、具体的な例を交えて見ていきましょう。
- 横書きの遺言書 高齢者の自筆証書遺言書は、圧倒的に縦書きが多い傾向にあります 。もし遺言書が横書きの場合、偽造者が若年者である可能性や、海外生活の経験がある可能性が考慮されます 。
- 文章の短い遺言書 長文の偽造は、偽造者にとって集中力を維持するのが極めて困難であり、書き損じや自身の筆跡が露呈するリスクが高まります 。そのため、偽造された遺言書は短文であることが多いです 。
- 高齢者が年号を西暦で書く 高齢者が遺言書や契約書の日付を和暦ではなく西暦で書いている場合、西暦に馴染みのある若年者や海外生活経験者による偽造の可能性が疑われます 。
- 筆跡の大きな乱れ 偽造者が、被相続人の認知症、視力障害、神経障害、関節障害などによる筆跡の乱れを模倣することで、自身の筆跡を隠蔽しようとする場合があります 。あるいは、本人の筆跡を判別しにくくするために意図的に乱雑に書くこともあります 。
- 旧字と新字、正字と誤字の混在 どちらかの資料が誤字や旧字で書かれており、もう一方が正字や新字で書かれている場合、筆者識別の重要な手がかりとなります 。これは、偽造者が文字の記憶が不確かなまま模倣を試みた結果である可能性が高いです 。
- 楷書で書かれている 対照資料が草書や行書であるにもかかわらず、鑑定資料が楷書で書かれている場合、偽造者が丁寧に書くことで模倣の精度を高め、かつ異同判断を困難にしようとした可能性があります 。楷書は運筆が遅く、意識的な制御がしやすいため、偽造者にとって都合の良い書体となりえます 。
- 書体の混在 偽造筆跡の場合、複数の資料から手本となる文字を探し出して模倣するため、丁寧に書かれた筆跡と乱雑に書かれた筆跡が不自然に混在することがあります 。
- 文字間隔の乱れ 筆跡自体に大きな乱れがないにもかかわらず、文字間隔のみが不自然に乱れている場合、文字の形状を似せることに集中するあまり、全体的な配置への意識が疎かになった可能性が考えられます 。
- 酷似している筆跡と似ても似つかない筆跡の混在 模倣がうまくいった箇所と失敗した箇所、あるいは手本が見つからずに想像で書かれた箇所が混在することがあります 。
- 特定の筆跡のみ本人のものと大きく異なる 他の文字はよく似ているのに、特定の文字だけが本人の筆跡と大きく異なる場合、その文字の手本が見つからず、模倣できなかった可能性が疑われます 。
- ペン先の太い筆記用具の使用 フェルトペンなど、ペン先の太い筆記用具が使用されている場合、潰れや滲みによって筆跡の微細な特徴を不明瞭にし、鑑定を困難にする意図がある可能性があります 。普段使いしない筆記用具である場合は特に注意が必要です 。
- 文字が大きく左傾したり右傾したりする 文字の傾斜も書き癖であり恒常性を持つため、不自然な左右への傾斜の混在は、筆跡の乱れではなく偽造の可能性を示唆します 。
- 句読点の有無や形状の相違 高齢者の中には句読点を打たない習慣を持つ人が少なくありません 。本人が句読点を打たないにもかかわらず、遺言書に句読点がある場合や、句点の大きさ・形状が不自然に異なる場合も偽造の可能性があります 。
偽造筆跡に共通する「無意識の不自然さ」
自筆証書遺言に限らず、偽造筆跡全般には、真筆を模倣しようとする意識的な努力から生じる、特有の不自然さが見られます 。
- 不自然な運筆(ためらい、修正、ぎこちなさ) 模倣筆跡では、文字の形状を似せようとする過程で、筆勢が途切れたり、不必要な加筆や筆継ぎ(線を書き足す、繋ぎ直す)の痕跡が見られることがあります 。また、ペン先の起筆部(書き始め)付近に、迷いから生じた短い線や点線(逡巡線、躊躇線)が出現することもあります 。
- 欠画や増画 偽造筆跡は、本人の無意識の運動によって書かれたものではないため、本来あるべき画が書かれていなかったり、一画多く書かれていたりすることがあります 。これは、模倣に集中するあまり、文字の構造を正確に再現できなかった結果として現れます 。
- 字画構成の乱れ 「字画形態」(画の長さ、角度、形状など)は比較的模倣しやすい一方、「字画構成」(画と画の交差位置、偏と旁の関係、起筆位置、画同士の位置関係など)は、書き終えて初めて全体像が把握できるため、模倣が困難です 。偽造筆跡では、字画形態は似ていても、字画構成に不自然な乱れや整合性のない文字となることが多く見られます 。
- 払う運筆を止める運筆で書かれている 偽造筆跡では、「払い」の運筆が途中で止まってしまったり、勢いがなく終筆部が細くなっていないなど、不自然な止め方で書かれている場合が多く見られます 。これは、模倣によって筆圧の強弱が不自然になることで起こる現象であり、見逃してはならない重要な兆候です 。
- つながり線や連綿線の不自然さ 自然な筆跡では、つながり線や連綿線(文字と文字を繋ぐ線)の先端や後端部分は、力を抜く運筆により次第に細くなります 。しかし、偽造筆跡では、これらの線が他の画線と同様の太さで書かれているなど、不自然に均一な太さであることがあります 。これは、形状を真似ることに意識が集中し、筆勢や筆圧の自然な変化が再現できていないためです 。
- 署名の上に印影が被る 多くの場合、署名から右に離れた位置に印鑑の陰影がありますが、偽造筆跡の場合には署名の上に被せて押印されるケースが目立ちます 。署名は注目される筆跡であるため、偽造を隠蔽する心理が働き、署名に被せて印鑑を押すという行動が推察されます 。
なぜ偽造筆跡は不自然になるのか?「脳科学的筆跡鑑定」の視点
これらの不自然さは、「手続き記憶」という脳の働きが関係しています 。文字を書く行為は、自転車に乗るのと同じように、繰り返し練習することで意識せずともスムーズに行えるようになる「無意識の動作の記憶」である手続き記憶に深く根ざしています 。この無意識の運動の記憶が、その人固有の「書き癖」として筆跡に現れます 。
偽造者は、手本となる筆跡を「真似よう」と意識的に努力します 。この「意識的な介入」が、本来無意識であるはずの手続き記憶による運動軌道を阻害し、結果として「書き癖の恒常性(安定性)」に不自然な崩れを生じさせます 。
「脳科学的筆跡鑑定法」は、この「恒常性の崩れ」を鋭敏に検知することで、巧妙な偽造筆跡であってもその不自然さを見抜き、真贋を正確に判断することが可能です 。特に、同一文書内に複数の共通文字がある自筆証書遺言書などでは、この「恒常性の崩れ」が偽造の強力な証拠となります 。
「もしかして?」と感じたら、専門家にご相談ください
上記はあくまで一般的な特徴であり、これらの特徴がすべて当てはまるからといって、必ずしも偽造であると断定できるわけではありません。しかし、もし複数の特徴に心当たりがあったり、遺言書の内容に違和感がある場合は、速やかに筆跡鑑定の専門家にご相談ください。
専門家は、科学的な視点と豊富な経験に基づき、詳細な鑑定を行います 。大切なご家族が遺された遺言書だからこそ、その真偽をしっかりと見極めることが重要です。


