科学的手法を用いた筆跡鑑定とは?

所長コラム

筆跡鑑定における「科学的手法」とは、特殊な機材や分析技術を用いて、肉眼では確認できない筆跡の特徴や変化を明らかにする鑑定方法です。伝統的な筆跡鑑定や計測的鑑定を補完し、より精密で客観的な判断を可能にします。

「科学的手法」という言葉を聞くと、それだけで鑑定が完結するように思われるかもしれませんが、そうではありません。ほとんどの筆跡鑑定では、主要な鑑定法(伝統的筆跡鑑定法や計測的鑑定法)と組み合わせて補助的に用いられます。

ここでは、具体的な科学的手法についてご紹介します。

1. 赤外線カメラを用いた調査:加筆や偽造を見破る

赤外線カメラは、主に書類の加筆や改ざんの有無を調べる際に用いられます。例えば、領収書の数字が後から書き換えられていないか、文章の一部が追記されていないかなどを調査します。

この手法が有効なのは、元の筆跡と加筆された筆跡のインクが、赤外線の透過性が異なる場合です。一方のインクが赤外線を透過し、もう一方が透過しない場合、カメラを通して見ると加筆部分が浮き上がって見えたり、消えたりするため、加筆の痕跡を特定することができます。

2. 加筆痕や筆継ぎ痕の調査:不自然な筆跡の特定

筆跡を拡大して、不自然な加筆や筆継ぎがないかを詳細に調査します。加筆はインク切れや書き損じによっても生じるため、一概に偽造とは言えません。

そこで、まずはそれがインク切れや書き損じによるものでないかを確認します。その上で、本来加筆の必要がない箇所に不自然な加筆や筆継ぎがないか、あるいは明らかに自然に書かれた筆跡とは異なる加筆や筆継ぎがないかを特定します。

<加筆痕の例(★の箇所)>

<筆継ぎ痕の例(★の箇所)> (ここに筆継ぎ痕の例の画像が入ります)

3. 書き順(筆順)や誤字・正字/旧字・新字の調査:筆者の習癖を読み解く

鑑定資料と対照資料の書き順が同じか異なるかを調査します。特に、書き順の違いは、筆者識別の強力な手がかりとなります。

人の文字を書く動作は、「手続き記憶」として脳に深く固定されています。そのため、同一人物が同じ文字を書く場合、指の運動動作はほぼ同じ軌道をたどります。書き順に明らかな違いがある場合、それは別人の筆跡である可能性を強く示唆します。

また、特定の文字の書き方(誤字・正字、旧字・新字の使い分けなど)も、個人の書字習癖として現れるため、鑑定の重要な要素となります。


筆圧による鑑定について

一部の鑑定機関のウェブサイトでは、「筆圧によって異同判断を行う」と記載されているようですが、筆圧だけで筆者を特定することは、論理的に100%不可能です。筆圧は、筆記具の種類、書く面の状態、筆記時の心理状態など、さまざまな要因に左右されるため、同一人物であっても常に一定ではありません。

当研究所では、科学的根拠に基づかない鑑定方法は採用しておりません。筆圧に関する詳細は、当鑑定人のブログ「正しい鑑定法よりも科学的根拠のない鑑定法が支持されるというジレンマ」で詳しく解説していますので、ご興味があればご一読ください。


まとめ:科学的手法は鑑定の「補助輪」

ここまでご説明したように、科学的手法は単独で鑑定を行うものではなく、伝統的な筆跡鑑定法や計測的鑑定法といった主要な鑑定方法を補完する、補助的な役割を担います。

したがって、「筆跡鑑定方法には、伝統的方法、計測的方法、科学的方法の3種類がある」というような表現は、読み手に誤解を与える可能性があります。当研究所を含む多くの鑑定機関では、多角的な視点から筆跡を分析するために、複数の鑑定方法を組み合わせて用いています。

筆跡鑑定にご興味やお困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。

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